2018年
ネーム原作とチャットノベルで野球三昧
年が開けて2018年。
僕は今年も日本ミステリー文学大賞新人賞に応募するつもりでいた。
新潮ミステリー大賞とも迷ったが、受賞作の本のデザインがかっこいいという点において日ミスは魅力的だった。
が、取りかかるのは2月からにして、1月は違うことに時間をかけた。
トークメーカー(現NOVEL DAYS)というサイトを発見したからだ。ここではチャットノベルというものが書ける。LINEのようなアイコンを使ってキャラクターに会話させられる、小説と漫画の中間のようなジャンルだった。
これを見て、「野球の話を書こう」と思った。
僕は小中高とずっと野球をやっていた。中学では部内でいじめに遭ったせいで退部したが、高校で再起を賭けて再び野球と向き合った。が、骨折4回、重い打撲2回、熱中症1回でことごとく病院送りとなって思うような高校野球生活を送れなかった。
それでも野球が好きなことに変わりはない。今はもう肘がボロボロで草野球すらできない状態だが、フィクションで表現することはできる。野球の魅力を発信する側に回りたい気持ちがあった。
僕は以前、小説で野球を書いてみたことがあるが、思うように表現できず数ページで諦めた。だが、チャットノベルは脚本形式に近い。僕の適性として、野球を書くなら小説形式より脚本の方が合っているかもしれない。
ちょうどこの頃、マウンテンプクイチさんの『球詠』という野球漫画にはまっていた。高校を舞台にした女子野球もので、丁寧な野球描写がとても魅力的だった(芳文社からコミックスが出ているのでみんな買って!)。
というわけで、僕も女子野球を書くことにした。
トークメーカーでは公式アイコンがたくさん用意されていたが、それだけで登場人物をそろえるのは難しい。野球は最低9人、対戦相手も含めればかなりの人数が登場することになるのだ。服装がバラバラではチームという感じがしない。
というわけでCHARATというサイトでいわゆる「うちの子」を作った。たくさんのパーツを組み合わせてオリジナルアバターが作れるのだ。野球のユニフォーム素材はなかったのでシャツに色をつけるだけで妥協した。
このアイコン制作がやたらと楽しくて、ついつい表情の差分を作りまくってしまった。そのせいで取りかかりがかなり遅れたが、1月中にスタートさせられた。
タイトルは「サンライズ・ボール!」。主人公の名字が朝山で、相棒の女の子の名前が
これが思いのほか伸びた。お気に入り登録が連日入って、日間ランキング1位、週間でも1位、月間では3位に食い込んでトップページに載るほどの勢いだった。
チャットノベル+女子野球という組み合わせはかなり風変わりなものという意識があって、おそらく反響はあるまい、完全に趣味だからスルーされても好きなようにやるさ、というスタンスで始めた。それだけにこの結果にはびっくりさせられた。
同時に、普通の高校野球ものを書きたいという気持ちも強くなった。弱小校を舞台にした物語。しかし強豪に勝っていくストーリーではなく、「いかにかっこよく負けるか」をテーマにした話が書きたかった。
僕は、大きく点差の離されたチームが、最終回に意地で1点返す場面にものすごく感動する人間だ。だから、そういうシーンをとにかく熱く書けたら最高だろうなと思っていた。
だが文章で表現する自信がなかった。
そこで思い出したのがネーム原作だ。僕は、フィクションで野球を表現するには漫画という媒体が一番向いていると思っていた。昔、一応野球ものの漫画もどきを描いていたのだからやれないことはないはずだ。
早速コピー用紙を引っ張り出して描き始めた。前述の野球ものはプロ野球を舞台にした話だったので登場人物がたくさんいた。これらのメンバーを高校に落とし込んだ。すでにキャラクター像が固まっているので描くのに支障はない。
調子よく話が進んで、一気に連載3話分を描き上げた。
野球漫画なのだから序盤からガンガン野球描写を入れて、3話目で最初の試合が始まるようにした。部員集めから始まって、あまり試合をしないうちに連載終了になってしまった作品を見てきたので、序盤のスピード感は重要だと思っていた。
で、せっかくこれだけ描いたのだから、当然誰かに見てもらいたい気持ちになる。
新人賞もいいが、連載を想定した原稿を受けつけてくれるのは以前も書いた少年ガンガンかガンガンJOKERしかない。連載陣をあらためて眺めてみたが、野球漫画はどちらのカラーにも合いそうにない。
迷った末、僕はある決断を下した。
――持ち込みに行こう。
それなら、読み切り形式でなくとも問題はないはずだ。
色んな出版社のサイトを見て回った。
そんな時、トークメーカーの座談会を見つけた。講談社・ヤングマガジンの編集者さんが漫画原作者について話しておられた。
ツイッターで定期的にバズっている、ヤングマガジンのスズキさんだ。
話の内容を見て、ここにしようと決めた。
僕は意を決してヤングマガジン編集部に電話をかけた。もうすぐ1月が終わるという頃だ。
ネーム原作の持ち込みをしたい。原作者志望である、と伝えた。
電話口の方は、新人を担当していないのであとで担当の者から折り返し連絡させます、と言った。電話を切る瞬間に、その方こそがヤングマガジンのスズキさんだとわかった。
そして夕方、その担当の方から電話がかかってきた。
ネーム原作は完成原稿より読むのに時間が必要なので、先にコピーを郵送してほしいと言われた。あらかじめ読んだ上で、当日に感想やアドバイスを伝えるという。
日程の調整をした結果、持ち込みは2月5日に決まった。27歳の誕生日当日である。
僕はすぐさまコピーを取って原稿を送った。
1月は、小説とは違う表現を最大限楽しんだ。持ち込みはその最終段階となる。これが終わったらまた小説原稿に戻るのだ。
こうして僕は、人生2回目となる単独での上京に向かうのだった。
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