ついに書いた私小説

 9月になると、まずはマガジン原作大賞のシナリオを三つ書いてNOTEにアップした。


 今月は小学館ライトノベル大賞と論創ミステリ大賞、文學界新人賞の締め切りがある。


 論創に新作は出せないが、カラーに合った過去作があったのでそれを書き直して応募することにした。結果発表が早いのも論創のいいところだ。


 ガガガ文庫にはこれまで6回応募しているが、すべて一次落ち(記憶が曖昧になってこのエッセイで書き忘れた分が数回ある)。他の新人賞ではそれなりに結果も出るようになったのに、ここだけはどうしても通れない状態が続いている。


 今回は1月に書いた原稿を送ることにした。

 双葉文庫ルーキー大賞に送った連作ミステリなのだが、受賞できなかった。それは受け入れるとしても、ただ6ヶ月待って何もなしというのはあまりにつらい。他賞ならもっと少し早く結果が出るし、場合によっては評価シートももらえる。二重投稿を避けるために半年待ち、徒労感だけが残った。


 この作品はライト文芸とラノベのさらに中間みたいなノリだったので、ガガガにアタックしてみる価値はある。


 そして文學界新人賞だ。

 3月に出した文藝賞がなんの音沙汰もなかったので落ちていることはわかっていた。あれと同じ方向性で書くのか、変えるのか。


 ここでは後者を取った。

 春は丸山健二さんの『黒暗淵やみわだの輝き』の表題作から影響を受けて書いたが、この短編集には「315号室」という中編も収録されている。これは丸山さんが小説を書く前、無線通信士をやっていた頃の自伝的小説である。


 今度はこちらを参考に、自分の話を書こう。そう決めた。

 とはいえただの自分語りなど絶対につまらない。

 そこで、一人称小説でありながら一人称を使わないという縛りを設けて書くことにした。


 書くのは、このエッセイの冒頭付近、高卒社会人1年目の夏から冬まで。

 来る日も来る日も残業、その一方で小説にのめり込んでいった日々を描いていく。

 この時期は工場内でも一人でいる時間が長く、変わり映えしない毎日を送っていた。

 自分というものが消えかかっていたとも言えるので、一人称を消す。


 以前、父親が自殺したあとに私小説を書こうとして諦めた。それは単に書き方がわからなかったからだ。

 今回はお手本がある。「315号室」を手元に置いて読み返しながら、18歳の夏を思い出しつつ原稿を進めた。


 そして完成した原稿は400字詰め換算でちょうど100枚。文學界は70~150枚なのでかなりいいバランスになった。


 僕は小説のネタにできそうな体験をたくさんしてきたと思う。誰もがそうだろうけど、その経験を小説に昇華する技術を得られたのが今回の最大の収穫だ。


 9月も複数の原稿を送り出したが、これが一番結果の気になる作品になった。

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