超初心者の冬コミ参戦記

『魂市』が完成した年の瀬。


 新潟で働いている友人K君から電話が来た。


「コミケに行かないか?」


 そんな誘いだった。


 前々から興味はあったが、東京に行く覚悟が出なかった。


 せっかくの機会だし、行ってみるか。


 僕は早速高速バスを予約し、東京へ向かった。


 バスは新宿駅前に着く。そこでK君を待った。


 ――これが東京か……。


 人が多すぎてナーバスになっていた。


 でも、いつか受賞できたら東京に来なければいけないのだ。編集さんとの打ち合わせとか、色々……。


 そんな日が来ればいいなーと妄想しているとK君が来た。


 まずSuicaを作ってチャージした。


 僕は先導するK君についていくだけだった。広島からも友人を呼んだというので上野駅に移動した。


 そこで三人になり、寝る場所を探して歩いた。


 しかしいい場所が見つからなかった。年末なのでカラオケもやたら料金が高い。結局ネットカフェに落ち着いたのだが、ここがチェアタイプの個室で、横になりたかった僕としてはきつかった。二時間ほどうとうとして、すぐに出発を迎えた。


 どういう順序で進んだのか、よく覚えていない。


 K君がひたすら僕の手を引っ張ってくれたので、それについていくので精一杯だったのだ。


 始発にも関わらず電車は満員で、降りてからもみんな同じ方向へ進む。


 これがコミケ参加勢なのかとようやく理解した。


 ビッグサイトに到着したのはかなり早い時刻だったはずなのだが、すでに長い列が作られていた。


 棒立ちで待った。途中から雨も降ってきてやたら寒かった。近くには折りたたみ式のイスを持ってきている人もいて、経験者すげー、と感動した記憶もある。


 たぶん五時間以上待った。

 K君からは、入ったらどこへ行って何を買う、というのを指示された。人気サークルの作品はすぐ売り切れてしまうので、一人で回るのには限界があるらしい。


 列が動いて、開場のアナウンスがされると拍手が起きた。僕も周りに倣った。


 場内に入った僕は、指示されたサークルを回って目的の品をひたすら集めた。ちょうどの金額を出せなくて、K君の友人に「なるべくお釣りの手間かけさせないようにするんだよ!」なんて言われる場面も。


 いくつか回ったあと、行列の向こうにK君の姿を見つけた。


 僕は「買えたよー!」と紙袋を持ち上げてアピールしようとした。その瞬間人混みが流れて、僕は漫画のギャグシーンみたいに、両手を挙げた状態でくるくる周りながら押し流された。いま思い返しても間抜けな絵面である。


 目的のものをすべて買えた僕達は、他のサークルも見て回った。


 東方Project関連のサークルばかり見て回った。僕は原作を「紅魔郷」から「星蓮船」までプレイしたことがあるだけで、二次創作系のものはまったく集めていなかったのだが、気になる同人誌やグッズがけっこうあったので手当たり次第に買った。


 終了になるまで、僕達はあちこち見て回った。企業ブースを見たり、レイヤーさんを眺めたり(K君は写真を撮りまくっていた)。


 そのうち、寝不足と疲労で体が重くなってきた。


 だんだん、まだ帰らないのかなと思い始めた。


 ようやくビッグサイトを撤収したのは夕方で、広島の友人氏は他に行きたい場所があるというので途中で別れた。


 僕とK君は秋葉原に行って、適当な店で食事を取った。


 が、お互い寝不足でイライラしていたようで、食べながら、しょうもない話で口論になった。


 どちらも折れることができず、とうとうK君に「俺ほかに行きたいとこあるから勝手に帰って」と言われてしまったので、僕も「ああそうする。道くらいわかるし」と強い口調で答えた。


 僕達はそこで別れた。


 秋葉原駅は視認できる位置にあった。迷うことはあるまい。そう思って歩いたが、街路が複雑で思った方向に進めない。たちまち道に迷ってしまった。コンビニで駅の方向を訊いたが、やっぱり思い通りには進めない。やがて雨が落ちてきて、すぐ土砂降りになった。傘のなかった僕は同人誌の入ったバッグを上着で隠して歩いた。


 そのうち、なぜか目の前に御茶ノ水駅が現れた。


 地下へ行くと、東京駅につながっていることがわかったので、地下鉄で移動して東京駅から新幹線に乗って長野へ帰還した。


 恐ろしく疲れた二日間だったが、貴重な経験もたくさんできた。


 後日、K君とはあらためて話して無事に和解できた。


 そんな具合に、2012年は終わったのだった。

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