日によって自己評価が変わる
江戸川乱歩賞の一次通過でテンションの上がった僕は、次作の学園本格ミステリ『キャンディーレイン』をせっせと進めていった。
目標は日本ミステリー文学大賞新人賞に決めた。
前年はギリギリ間に合わず悔しい思いをしたのでリベンジだ。
4月中に原稿が完成した。
締め切りは5月10日なので、推敲の時間はしっかり取れる。
気になる点は、ゴールデンウィークが一番忙しい職場ということだった。
ほとんどの人はこの連休を最後の推敲に当てるだろうけど、僕はそうはいかない。平日にどれだけチェックできるかが勝負だった。
ここで変な状態に陥った。
読み返して、「なんだこれ、めちゃくちゃつまらないぞ……」と思う日がまずあった。これは応募原稿の作業中、高確率で発生する現象だ。
ただ、その翌日に読み返すと、「いい感じに熱量が込められたんじゃないか?」とニヤニヤしてしまう。
こんな状態が繰り返された。
面白く思えない日、面白く感じられる日がはっきり別れたのだ。
なんだこれは?
自分でもよくわからなかった。
作品内には、登場人物が感情をぶちまけるシーンがいくつかある。今までは、あまり感情的にならないよう、文章を適度にセーブしてきた。この作品ではそれをしていない。思いが爆発するシーンは、地の文でもたたみかけていった。
これまでの自作の中で、一番性描写が多いというのも特徴の一つだ。この人物がこういう性格なら、こんなことをしていてもおかしくない、といった連想から自然に増えていった。
今まで書いてこなかった要素が多かったために、自分でもどう受け止めればいいかわからなかったのかもしれない。
そんなこともありつつ『キャンディーレイン』の推敲を終えてプリントアウト。締め切りの前日に応募した。
日本ミステリー文学大賞新人賞は、前年の受賞作が2月に刊行されていた。葉真中顕さんの『ロスト・ケア』だ。これが話題になって、賞自体が注目を浴びることも充分に考えられた。応募数は去年より増えるかもしれない。そしたら一次通過はより難しくなるだろう。だが、乱歩賞の総数を上回ることはないはずだ。
いけるいける。
今度はもっと上まで行ってくれ。
応募したあとは願うだけだった。
この数日後に江戸川乱歩賞の最終選考会が行われ、竹吉優輔さんの『襲名犯』が受賞作に決まった。出たら買おう、と僕は思った。
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