年内にもう一本書けたが……
無職になったものの、実家暮らしならあまり困ることはない。
とはいえ何もせずにいるのは家族に申し訳ないので、畑や田んぼの手伝いはなるべくやった。
我が家ではラブラドール・レトリバーを一頭飼っているので、散歩の役も買って出た。安定剤の影響で朝起きられないので、朝の散歩は弟が、夕方の散歩が僕が担当することになった。外に出る習慣がより確立されたので、これはいいことだった。
その安定剤だが、体調に変化がない場合は別の薬を試したりした。
効果が出ないだけならまだマシだ。ひどいものだと全身に力が入らなくなり、よだれをこぼしたまま横たわって動けなくなったりした。
先生は毎回、丁寧に薬の説明をしてくれる。副作用についての説明もあったので、それが出た時にはすぐ報告して取りやめたりした。
そんな中、十月の終わり。
せっかくだからもう一本くらい書きたいな、と思った。
今度は現代バトルものが書きたい。
ネタはあった。
冒頭でいきなり殺された主人公と、ネクロマンサーでネクロフィリアのヒロインが戦う話だ。
僕はラノベのテンプレを理解しつつあった。
現代異能バトルものでは、主人公とヒロインの邂逅シーンになるべくインパクトを持たせ、中盤にはラッキースケベを盛り込んだコメディ展開を繰り広げる。終盤だが、読んだ作品の中では、味方が一人裏切るパターンが多かった。これによって急転直下のラストになだれ込むというわけだ。
これにのっとって書くか、と思った。
まず冒頭。主人公が異能バトルに巻き込まれて殺されてしまう。それを発見したヒロインの死霊魔術で蘇生させられる。こうしてヒロインなしには活動できない体になってしまうわけだ。ストーカー気質の幼なじみにあれこれ迫られつつも、主人公はメインヒロインと同居生活を始める。しかし彼女はネクロフィリアなので夜になるとベッドに押し倒されたりしてドタバタ……。
一方、街では女子高生連続誘拐事件が起きている。終盤では、幼なじみがこいつと遭遇して姿を消す。主人公は強化された能力で幼なじみを追跡、すると発見した廃工場にいたのは、メインヒロインの家を管理しているはずのハウスキーパー。これまで親切にしてくれていた男が実は黒幕だった、と思いきや、その裏にはさらに糸を引いている奴がいて――。
ざっとこんな感じ。
現代ものなので、より会話が書きやすい。
調子のいい日はぐんぐん進んだ。
書いているうちに十一月になった。
僕は、この作品をファンタジア大賞以外のところに送ろうと考えた。というのはこの時期、木村心一さんの『これはゾンビですか?』がファンタジア文庫の看板になっていたからで、ネクロマンサー設定でぶつかるのはまずいと思ったのだ。
この時期に締め切りがあるのはGA文庫大賞。十一月末日だ。
よし、ここに出そうと決めた。
完結したのは十一月中旬だった。締め切りまで推敲の時間があまりない。
しかし、それよりもまずい事態が発生していた。
下限枚数に届いていないのだ。
42文字×34行で80枚以上。
正直、これは短い方だ。なのに、それにすら届いていないのである。どんだけサクッとまとめちゃったんだよという話だが、書き込みが圧倒的に不足していたのだ。
どうすればいいかわからなかった。
経験がとにかく足りていなかった。
悩んでいるうちに締め切りがどんどん迫ってくる。
苦し紛れに、文章を水増しした。
どうでもいいような心理描写を長くしたり、改行寸前で終わっている文章に数文字書き加えて行数を稼いだり……。
だが、とうとう間に合わなかった。
最終的な原稿枚数は、76枚。
十二月になった。
僕はぐったりして、しばらくワードが開けなかった。
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