2024年

江戸川乱歩賞よ、私は帰ってきた!(3回目)

 2024年初日は吉日の重なる最強開運日ということで、年末に練っておいた作品を書き始めることに決めていた。


 学園ミステリで、屋上からの飛び降り事件を扱う。主人公は三階の窓越しに落ちていく女子生徒を目撃するのだが、窓を開けると地面に倒れているのは男子生徒だった――という内容だ。


 しかし、この事件は見破られてもOK。その裏に隠されていたある人物の真相を見抜いた人が本当の勝者だ。それを論理的に当てられるよう、大量の伏線もすでに考えていた。


 が、すんなり執筆開始とはいかなかった。

 夜に時間を持て余すことが多いので、着手は夜からと決めていた。

 そしたら、夕方にぐらっときた。

 能登半島地震である。

 僕の住む地域は震度5弱だった。横揺れが長く続き、恐怖のあまりしばらく身動きできなかった。テレビでは津波から逃げろとアナウンサーが声を荒らげている。

 2014年に6弱を経験して以来の大きな揺れ。メンタルが一気にやられてしまい、リビングでぼんやりするしかなかった。


 余震がいつ起きるともわからずビクビクしていたが、あまりにもやることがなさすぎる。

 だったらもうパソコンをつけよう。

 夜8時くらいにそんな決心をして、新作に取りかかった。


 これまでの長編執筆は時間を決めずに書きたい時に書くスタイルだったが、今作の執筆は夕方以降のみと決めていた。


 オフシーズンなので時間は自由に使える。

 昼間は読書をして、夜に執筆。

 このスタイルで読書量を確保しつつ、速度にとらわれない作業をしようと思ったのだ。


 しかしキャラに入り込むことができたせいか、夜だけの執筆でもどんどん話は進んでいった。

 2週間ちょうどで80%くらい出来上がって、1月中には書き上がりそうだった。その翌日、最終章を書いたら筆が乗りまくって一気に完結までたどり着いてしまった。執筆期間15日。書きたいことがはっきりしていたので手が止まらなかったことが最大の要因だろう。


「完結した!」と家族に報告したら、「じゃあ江戸川乱歩賞間に合うじゃん」と言われた。僕が今まで新人賞の話を聞かせすぎたせいで、母と弟も締め切り日を知っているのだ。


 確かに、あと15日あれば推敲はできる。

 最初は、1月末までに書いてじっくり見直し、5月の日本ミステリー文学大賞新人賞に出そうと考えていた。

 乱歩賞は間に合わないと思っていたのだ。推敲の時間が確保できそうなのは想定外だった。


 どうしたものか。

 少し悩んだが、乱歩賞を選んだ。

 なにせ今回は節目の70回。選考委員も七人いる。僕としては綾辻行人さんか有栖川有栖さんに読んでいただきたい気持ちがあるのだが、記念回ということでお二人とも選考委員に名を連ねている。加えて東野圭吾さんまでいる。これを逃すわけにはいかない。


 2021年の乱歩賞は三次落ちだった。「クローズドサークルものとしてはベタすぎる」と予選委員から指摘を受けている。

 最近では事件が起きるまでにページ数を使いすぎる悪癖も出ていた。

 今回はこれらを克服できるよう意識的に書いたつもりだ。 


 作品の色合いと賞の相性も考えた。歴代の受賞作を眺めると、学園ミステリなら東野圭吾『放課後』などの例があり、ライトなテイストで考えると荒木あかね『此の世の果ての殺人』などがある。


 よし、大丈夫だな!――などと自分に言い聞かせ、1月25日にウェブから応募した。


 一粒万倍日に書き始めたのだから、最後まで験を担いで一粒万倍日に応募しようと思ったのだ。でっかく実ってくれと祈りつつ。


 送ったあともだらけなかった。すでに次のミステリを思いついていたのだ。

 乱歩賞の結果を待ちながら、こちらを日ミス用に用意しておけばいい。

 そう考えて、28日から24年二本目の原稿に取りかかったのであった。

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