2012年

やっぱり電撃文庫に惹かれて

 新人発掘プロジェクトに応募したはいいが、これまで落選しまくっていることもあるし、当然次の作品を用意しておくべきだった。


 主人公が並行世界に転移してしまう話にしよう、と思った。この数年後に異世界転生、転移のブームが巻き起こるとは予想もしていなかった。


 ひとまずキャラ設定を作ったが、今作ではどうしてもやりたいことがあった。


 2011年末は、道尾秀介さんの作品を読んでいた。特に『ラットマン』『カラスの親指』が気に入った。そして『カラスの親指』のようなどんでん返しはバトルものにも流用可能だと感じた。


 なので、近未来っぽい都市でバトルをやりつつ、ミステリ的などんでん返しを仕込んでいこうと思った。


 どんでん返しは人間関係から作っていくのがよさそうだ。キャラ設定を今まで以上に作り込み、このキャラがこういう人生を送ってきたのならこんなエピソードがあってもおかしくないはずだ、という感じで構成を積み上げていった。


 しかしここで、落ち着いていた精神が不調を起こした。テンションが上がらなくなり、布団から出られない日まで出てきた。体調不良はずるずる長引き、二月の終わりごろまでぐったりした状態で過ごすことになった。


 先生に「考えすぎは毒ですよ」と言われたが、こちらは常に考えなければいけない人間なのだ。メンタルとやりたいことが絶望的にかみ合っていなかった。


 ようやくテンションが回復してきたのが二月末。

 三月頭から原稿に着手した。

 異世界転移、バトル、日常風景、急展開からの最終決戦、そしてとどめの謎解き。ばらまいてきた伏線を片っ端から拾い上げ、すべての違和感が解消されるように落とした……と、本人は思っている。


 原稿が完成したのは四月頭。締め切りは十日。推敲の時間がわずかしか取れない。誤字脱字のチェックが精一杯だった。


 重要な問題も残っていた。


「またタイトルが決まらねえ……」


 主人公が迷い込んだ世界には並行世界を観測するチームがいて、観測された順に第一郷、第二郷、と名づけているという設定がある。主人公のいた現実世界は第五郷だ。


 これをキーにして考えた結果、「第五郷より」という、またしても味気ないタイトルになった。思いつかないんだからしょうがない。開き直って、僕は電撃大賞に原稿を投じた。


 新人発掘プロジェクトだが、入選者には三月中に連絡すると書いてあり、何事もなく四月になったので、すぐに諦めた。

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