六話六種の文体を書き分ける

 ガガガ文庫に応募したあと、道尾秀介さんのツイートで「別冊文藝春秋新人発掘プロジェクト」というものの存在を知った。


 十二月末締め切り。

 三十五歳以下の、プロデビュー経験のない人。


 こういう条件だった。


 規定枚数の下限がかなり少なく、短い話でも大丈夫のようだった。


 僕は恒川光太郎さんの『南の子供が夜いくところ』がすごく好きで、ああいう連作短編集をそのうち書きたいと思っていた。今こそ書くべきでは。


 ガガガ文庫の結果待ちの間にプロットを作った。


 結界によって外界から隔絶されたコミュニティが舞台だ。


 その世界では「闇岩」というものが絶えず闇を吐き出していて、一年中ずっと夜。太陽はないが月が出るので、人々は月の出る時間に活動する。


 大枠をこんな感じにして、そこに六本のネタを落とし込んだ。


 第一話。この世界の成り立ちを神話風に語る。

 第二話。魑魅魍魎が住む魔の山であえて暮らす男の話。

 第三話。荒れ果てた寺に住む男が、訪れた相手にこうなった経緯を語る。

 第四話。集落の外に住む絵描きの絡んだ事件を、三人称で。

 第五話。子供たちが、不思議な少女とともに現実世界の光を集めて回る。

 第六話。闇岩を守る男が、余命幾ばくもない半獣の娘と結婚してやる話。


 これらをすべて違う文体で書く。

 三人称、朗読風、回想風、ハードボイルドっぽいのや子供の幼い語りなど。


 かなり変な話になるのは間違いなかった。文章力も必要だし、すべてに面白いストーリーを用意しなければならない。


 一つ一つノートにまとめていった。

 練り込みに時間がかかり、本編を書けないまま十二月になった。


 十二月一日は小学館ライトノベル大賞の一次発表があった。


 僕は起きてすぐパソコンの電源を入れた。


 もう発表されている。


 ゆっくりスクロールさせたが、新しいペンネームは影も形もない。


「ない……のか……」


 またしても一次落ちだった。 


 しかし落ち込んだのは少しの間だけだった。


 僕は新人発掘プロジェクトに応募しなければならない。止まっている暇はないのだ。


 ただちに原稿を書き始める。


 六本の短編を、事前に想定していた文体で書くのはとても楽しかった。


 うまく表現できず手が止まることもあったが、なんとかギリギリ、12月30日に完結をみた。


 メールにて応募とのことだったので、その日いっぱいは推敲に使い、大晦日の昼間に送信した。


 こうして、2011年の戦いは終わった。


 長編を二本、連作短編集一本、短編を一本書いた。しかし、応募したものはすべて一次落ち。


 来年こそは、という思いとともに、僕は二年参りに出かけた。

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