本格的に書けない/○ケモン剣盾は沼

 このミス大賞での落選が決まってからは、ショックでしばらく何もできなかった。


 祖母の介護から逃げることもできず、仕事に行って、農作業もやって――という生活が変わらず続いた。


 10月になって、このミス大賞の選評が公開された。


 選考委員は書評家三人。


 大森望さんには比較的褒めてもらえたものの、どの読者層を狙っているのかわかりにくいと言われた。


 香山二三郎さんにはどんでん返しを評価してもらったが、主人公がさほど魅力的でないことや、題材の新規性のなさなどを指摘された。


 吉野仁さんがもっとも厳しかった。この方は過去の選評も厳しかったので覚悟はできていたが、「地味で薄く弱い」なんて言われるとさすがにきつかった。


 このミス大賞には、落選作の中から可能性のある作品を拾い上げる「隠し玉」という枠があるのだが、ターゲットが明確でないという時点でそこに選ばれることはありえないと諦めがついた。


 ならばすぐにでも次の作品を書くべき……なのだが、書けなかった。心は折れていた。


 そこで、やはり過去作を直して別の賞に送るしかあるまい、ということになった。


 2017年に書いた「幻狼亭事件」を「木獣もくじゅう屋敷の亡霊」と改題・改稿して、12月頭締め切りの星海社FICTIONS新人賞に応募した。


 それが精一杯だった。

 いよいよ何も書けなくなるかもしれない。この家にいたら潰される……。そんな不安でメンタルが常に圧迫されていた。


 しかしお金がないし、稼ぐには体調が不安定すぎるというハンデを抱えているのでやはり実家に頼らざるをえないというのがとにかく苦しかった。



 で、そんな中ポケモンの新作、ソード/シールドが発売された(11月中旬)。


 僕はもう原稿をやる気力もなかったのでゲームに逃げた。


 そしたら、これがとんでもない沼だった。


 ハードがSwitchに変わって画面が美しくなり、より生き物らしくなったポケモンたちにすっかり魅了されてしまった。


 ジムリーダー戦の演出も抜群にかっこよく、プレイ時間がどんどん増えていった。


 ラストでチャンピオンを倒し、主人公が新チャンピオンになる。その後のエンディングに心を締めつけられた。


 で、チャンピオンになるとあちこちの施設で「ようこそチャンピオン!」なんて言われるようになるのだが、これが個人的にはきつかった。


 主人公は子供である。

 その年齢でチャンピオンになってしまったがゆえに、もう普通の子供ではいられず、しかし大人にもなれないという、誰にも理解されない重荷を背負うことになってしまったのだ。主人公のことを思うとつらかった。


 お前なんでポケモンのストーリーでそんなに苦しんでんのという感じだが、僕には主人公がそう映ってしまって本当にきつかったのだ。


 それはともかく、今作は育成が非常にしやすくなっていたので、好きなポケモンをどんどん育てまくった。


 そして、初めてオンライン対戦(ランクバトル)にも打って出た。

 人が相手というのは考えることも多く、読み合いに不慣れなこともあってけっこう負けたが、盤面を制圧した時の爽快感はすさまじかった。ランクバトルには今でも潜って色々な構築を試している。


 小説はデスクトップPCで書いているが、ポケモンはプレイしながら移動できる。だから、祖母を介護する合間合間にやるのはポケモンになった。


 小説はどうした?

 どうにもならなかった。


 そんな状態のまま2020年へと突入していくのである。

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