スタートラインに並びたい
5月7日。アガサ・クリスティー賞の一次落ちを受けて次の投稿先を考えなければならなくなった。
まずその日が〆切りである角川文庫キャラクター小説大賞に目をつけた。枚数は40文字×40行で45~100枚。しかしカクヨムからタグをつけて参加することができ、その場合は8万文字~16万文字となる。
カクヨムには「幻狼亭事件」を公開している。普通の応募書式では余裕で枚数オーバーしてしまうこの作品だが、カクヨムでは12万文字のためこちらから参加すれば規定内となる。この規定の穴(?)を突いてエントリーした。
さらに近くの〆切りでは10日の日本ミステリー文学新人賞、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞の二つがある。手元に新作原稿はなく、改稿作に頼ることになるわけだが、日ミスの改稿作への厳しさはとにかくすさまじい。
となると、改稿されていれば受けつけると公言している福ミスへの応募が安定となる。
問題はどの作品を送るか。
考えた末、星海社FICTIONS新人賞で落ちた「幻影蝶の夏」を選んだ。タイトルは「うたかたの夢蟲」に変更した。なぜこれかというと、単純に星海社でもらったコメントが釈然としなかったからである。
「本格ミステリとしては粗すぎます。(原文そのまま)」
という一行の内容だが、僕としてはその一言だけではどうしても納得できなかったのだ。往生際が悪いにもほどがあるが、福ミスはミステリ新人賞の中では本格ミステリ寄りの賞であり、ここでも予選落ちするようなら僕の自己評価基準がおかしいということになる。それを確かめたかった。
慌てて原稿を印刷し、USBメモリを買ってきて応募。
あとは月末締め切りの『このミステリーがすごい!』大賞だ。編集部に名前を忘れられないうちにもう一度参加したかった。
乱歩賞の落選作を直して送ろうと思ったが、あちらで三次まで進んだため、予選を担当する書評家七人に読まれている。そのうち四人がこのミスの選考委員も兼任しているので圧倒的に不利。改稿応募の場合、予選委員の名前は極力調べて、かぶっていなさそうなところに送ったほうがお互い幸せになれる(はずだ)。
可能性がありそうなのはクリスティー賞の落選作だった。一次落ちなので一人にしか読まれていない。加えてこの作品は、〆切りの1ヶ月前から書き始めた超突貫工事だったため、推敲を満足にできないまま送ってしまった。磨けば光る可能性は残されている。
読み返してみると、雰囲気作りが不十分で、登場人物たちの動きに説得力がないような気がした。ノストラダムスの大予言の影響で、社会を停滞したムードが覆っている――そういう空気感がしっかり出ていなければ、この作品の謎解きは土台から崩れてしまうのだ。
また、その謎解きも突き詰めきれていなかった。
ゆえに、今回手を入れたのは「必然性」だった。
以前、日本ミステリー文学大賞新人賞で、ミステリ評論家の千街晶之さんから長いコメントをいただいた。そこに「横溝正史の『獄門島』を想起させる犯行のタイミングの必然性」という文章があった。僕は、まさか横溝作品を引き合いに出されるとは思ってもいなかったのですさまじいインパクトを受けた(実は『獄門島』を未読だったのでそのあと慌てて読みました)。
その時から、犯行のタイミングの必然性というものをなんとなく意識するようになった。この改稿ではもっとじっくり向き合おうと思い、条件をより慎重に組み上げていった。
タイトルは「少女たちの秒針」として、このミス大賞に応募した。
これで三作品が結果待ち状態となった。
三作も出して新作なしかよ。そんな気持ちにもなった。
改稿再応募に否定的な人は多いが、それで受賞する人もちょくちょく出ている。
「生産力が身につかないでしょ」と言ってくる人に対しても、新作は書き続けているので……と反論はできる。
なので僕は、不安になったり不遜になったり不安定な日々を送ることになった。
ただ、新人賞への応募は一つのスタートラインだと思っている。
まずはそこに並ばなければ何も始まらない。
今は、ただレースへの参加資格がほしかった。
意味のない行為かもしれない。
でもやめられないのであった。
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