ロジックよりトリックの気分
7月になってまた新たな展開が起きた。職場のベテランさんが脳梗塞で入院したのだ。幸いにも後遺症などはなく、無事だったのでひとまず安心した。その人が復帰するまで出勤日数が激増したのは若干きつかったけど。
そして、この時期は日本ミステリー文学大賞新人賞のメール待機のお時間である。一次通過していると二重投稿の有無を確認するメールが来るのだ(前に応募した時はそうだった)。
が、メールは来なかった。前回来た時期を過ぎてもなんの音沙汰もなかったので、もやもやを引きずったまま終戦となった。
……前半かなぁ。
送った作品は、前半が退屈かもしれないと思っていた。後半の謎解きはかなりページ数を使って盛り上げたので、一次落ちなら前半が駄目すぎたと考えるしかない。ともかく日ミスはこれにて幕引き。
というわけでまた焦りが生まれた。8月を過ぎると投稿生活が12年目に突入してしまうのだ。干支が一周してもアマチュアからランクアップできなかったと考えると悲しすぎる。
とある小説塾講師が原稿用紙1万枚も書く頃には普通の人ならデビューできると言っていた。1万枚はとっくに超えている。つまり才能ないってこと……?
などとマイナス思考になりかけたが、それより新しい原稿を書いた方がよほど建設的だ。
僕は新しい原稿に取りかかった。
次に狙う賞は、9月末締め切りの論創ミステリ大賞だ。これは論創社が創業50周年記念に開催した賞で、おそらく一回限りのものだと思われた(締め切り後に二回目開催が発表された)。
ここには出してみたい理由があった。
僕が「論創ミステリ大賞に出そうかな~」という感じのツイートをしたら、論創社の編集者さんに引用リツイートで「ぜひご参加ください」と返事をされてしまったのだ。それが面白かったのでずっと気になっていた(誰もこの賞のツイートをしていなかったから目にとまったのだと思われる)。
論創社と言えば古典ミステリと海外ミステリの発掘に力を入れている出版社だ。正統派のミステリで勝負するのがいいだろう。
6月から練っていたネタをここで使うことにした。
離島を舞台にした本格ミステリで、メイントリックには密室を使った。
日ミスでの出足の遅さを反省し、早めに第一の事件を起こす。そこからイベントをたたみかけてメインである第二の事件につなげていく。
当初の想定より枚数が伸びず、例によって例のごとく規定枚数の下限に届かない病が発動しているのがわかった。そこで後半のプロットを立て直し、追加エピソードを仕込んだ。それでも完結した段階では325枚。規定は350枚以上。足りなかった。
ここまでどの作品もほぼ1ヶ月で書き上げてきたのだが、この作品は他の事情(仕事量増加+モンハンサンブレイク)もあって1ヶ月半かかった。規定に届いた時にはもう9月になっていた。結局、原稿は355枚で完成を見た。
ここに来て僕は、王道の不可能犯罪系ミステリにすっかりはまりこんでいた。書いている時期にいろんな物理トリックを思いつき、この方向性をしばらく続けてみようと決めた。
初めて乱歩賞に応募しようとした2009年の段階では、物理トリックが思いつかなくて一度ミステリから離れた。そこから特殊設定や叙述トリックを使った作品を書いてミステリ執筆のコツを掴んできたが、ようやく原点に立ち返った感覚だった。
これまではロジック重視の自分だったが、ここからはトリックを前面に押し出していく方針でいこうと決めた。クラシカルなスタイルは一周回って逆に新鮮に映るかもしれない。そんなことを思いながら、9月の第3週に原稿を送り出した僕でありました。
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