第50話 お風呂の為の水車。

 サンドイッチを食べて、しばらくした後に水車のクラフトが終了した。

 設置するにあたってイリスを呼ぼうかと思ったが、散策に出掛けているのか朝から姿が見えない。

 モチもいないし一緒に行っているのだろう。


「最近仲良いよなぁ、あの2人」


 なんだかひとりぼっちを感じてしまって淋しい。

 モチに構ってもらいたい……。


「ふん、別にいいし! 水車建てちゃうもんね!」


 我ながら情けない……。

 でもいないししょうがない面はある。

 怒られたらいなかったからしょうがないと言うしかないだろう。

 まぁでももしかしたら帰ってくるかもしれないし、水路をクラフトして待つとしよう。




 結局戻ってこなかったので設置してしまった。

 水車を設置したのは橋の上流、台所の裏にした。

 水路がカスタムできるようになったので、ここに置いた方が台所とお風呂の両方に使えると思ったからだ。

 水車の形は洗濯機の時と同じで、歯車を回すことで上下に動いて水面、水中と移動できるように設計されいていた。

 お蔭様で必要のない時は水面に上げて、無限に水を供給されるということもない。


 カスタムした水路は二又に分かれており、片方は台所、片方はお風呂場へと伸びている上に分岐機能もあってどちらへ流せるか選べるようになっていた。

 といっても木の板なので多少は漏れるだろうが、そんなに問題になることはないだろう。

 そして当然、場所が場所なのでお風呂場の方への水路は長い。

 位置の関係で橋の上を水路が通ることになったが、足場は橋に干渉せずに綺麗に設置できた。

 が、長い水路に緩やかな傾斜をつけてお風呂場へ伸ばすのは骨が折れたな……。

 だがそのお蔭で水路の下を余裕で通れるくらいの高さを出すことができた。

 まぁその弊害でお風呂場付近で急にガクンと下がって滝みたいになるのだが。

 しかしこれは水車の上の方から給水してもらうからそれほど水量もないので急な方向転換が可能となった。

 なんというか、超長い流しそうめんでも作ってる気持ちになった。

 傾斜のある町全部使って流しそうめんチャレンジするような気持ちだ。


「なんかそういうの昔見たことがあるような……ないような……思い出せん。まぁいいや。完成~」


 拠点の北半分を貫く水路ができたことで一気に文明感が出てきたなぁ。

 なんというか、個々に置いた物が繋がり始めて、立体感が出てきたというか……そんな印象だ。

 切り株のテーブルの位置から見るとそれがよく分かる。


 アワの木もすくすく伸びて赤い実をつけている。

 この小さな実もまた良いアクセントになるんだよな……特殊な木だから1年中、実をぶら下げている。

 サイクルがとても早いんだよな、この木は。

 花の形が特徴的で、成長が進むと自然と受粉してしまう。

 そして花が散って実が生って、その実がある程度熟す頃に再び蕾が生まれてくる。

 こうして早いサイクルで増える実だが、実は増え続けるということもない。

 何故ならば動物たちもこの実を利用するからだ。

 なんでも消化の手助けになるとか、体調がよくなるとか、そんな話を聞いたことがある。

 でも人間にはあんまり効果が出ないようなので、俺たちは食べたりはしない。

 健康になるんだったら食べても良かったんだけどな。


「ふぅ……あぁー……」


 背中を伸ばし、そのままテーブルの上に寝転ぶ。

 視界いっぱいに広がる空は青く、少しの雲が先を急いでいる。

 といってもその速度は非常に緩やかで、モチが走ったら一瞬で追い越してしまいそうだった。

 柔らかな風がアワの木の葉を撫でる音と、遠くを楽しそうに飛ぶ鳥の声が聞こえる。

 目を閉じると一瞬で意識を刈り取られそうな、あまりにも穏やかな時間だった。


「んん……」


 自然と降りてくる瞼に抗えない。

 瞼越しに見える赤い光と暖かさがどんどん俺の中の眠気指数を上げていき……。


「くぅ……」


 気付けば俺はお昼寝をしていた。



             □   □   □   □



「…………ん……寝ちまった……」


 目を開くと太陽はもう夕日となっていた。

 まばらだった雲はなくなり、空は橙と紺のグラデーションで染め上げられていた。

 欠伸ひとつ、体を起こすと頭の上からパラパラと小さな白い花が落ちてきた。


「なんだこれ」

「あははっ」


 頭にからどんどん落ちてくる花を見ていると背後でイリスの笑い声が聞こえてきた。

 振り返るとイリスとモチが俺を見て笑っていた。


「こんなとこで寝てたら風邪ひくよ~?」

「だからって花だらけにしないでくれ……」

「花畑見つけてね~」

「あぁ、この花ならあれでしょ。山の北東に行ったところにある白水菊シロミズギクの花畑」

「よく知ってるね!」


 シロミズギクは読んで字の如く、白い水属性の菊だ。

 微量な水属性を含んでいて、エタデでは錬金術師とかは抽出したりするとか聞いたことがある。

 俺は錬金術師にはならなかったのでやり方は分からないが、そういう作業とか楽しそうだなーとは思う。

 抽出したところで使い道がないからな……ポーションとか作るのかな。

 それはちょっと楽しそうだが。


「今度みんなで行こうよ」

「いいね。あー、明日はアンスバッハ行こうと思ってて」

「パン作り?」

「もあるけど、それ以外にも色々」


 俺がパン作り失敗して悔しがってるの、バレてたらしい。

 きまりが悪くて耳の前を掻いてたらどんどん花が落ちてくる。

 もう、どんだけ持ってきたんだよ!


「てかてか、水車! 水路! なんで!」

「いや、おらんかったし……」

「もー! 今日は私が一番だからね!」

「なんでだよ! 花まみれの俺だろ!」


 抗議するが聞き入れてもらえず、俺は花を散らかしながらうなだれた。

 ちなみに水車は問題なく稼働した。

 水路を綺麗に水が流れ、引き上げた水はそのまま浴槽へと入っていった。

 問題は流れてきた落ち葉とかが普通に入ってきたことだ。

 フィルターとか用意した方がいいな……!

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