第40話 次に作るものは。

 散策に夢中になっていたイリスが落ちていた枝やら何やらを抱えて戻ってきた。

 それをクラフトブックに仕舞いながら皆と少し雑談し、その場は解散となった。

 アルターゴブリン拠点跡地から森へと入り、俺たちの拠点へと戻る最中、イリスはずっと俺に謝っていた。


「ごめんねぇ」

「だから誰も怒ってないって~。素材集めてくれたの、むしろありがとうだよ」


 さっきから何回も謝るイリスに俺は礼を言い続けていた。

 むしろありがとうだったし、何なら俺がごめんなさいだ。

 だって俺はボケーっと空を眺めていただけだったし。


「でも良いこと聞けて良かったよね」

「本当にな。来月の収穫祭、俺たちも行く……っと、イリスはどうする?」

「うーん……」


 イリスは元々冒険者で、気が合ったことをきっかけにここまでやってきてしまった。

 彼女は冒険者という仕事もあるし、帰る家もある。

 心配してくれるのは嬉しいが、エルフ族に会いに行くのは……できればやめてほしいと思っている。

 理由としてはイリスは森の住人ではないことと、エルフ族の里に行くことが安全ではないということだ。

 俺は勝手に森に住んでいるのと、ケイたち妖猫族に家族として迎え入れられているのを理由に押し通るつもりである。

 だがイリスはモチやケイたちに気に入られてはいるが、やっぱりどうしても森の住人ではなかった。

 1年に1度の収穫祭に参加する条件が森の住人というのは思っている以上に重い理由であるのは理解できるだろう。

 ただ、大前提として俺はイリスに帰ってほしいという気持ちは一切抱いていない。

 イリスと暮らすことがとても楽しく思っているし、今ではなくてはならない存在だ。

 できれば森の中と外の生活が両立できたらなと思うが……こればっかりはイリスに判断を委ねるしかなかった。


「帰るしかないなーってのが、今の気持ちかな」

「そうか……残るとかなじゃなく?」

「うん。冒険者の仕事もあるし、家の仕事もあるからね。心配だからーってついて来ちゃったけれど、全部放り出してきちゃったから」

「今更だけど、それって大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫! 別にいきなり町を離れるのはこれが初めてじゃないし」


 意外と放浪癖とかあるのかもしれない。

 イリスは足元に転がる枝を拾い、俺に手渡しながらにこりと笑う。


「最初はさ、本当に心配だったんだ。家を追い出されて森に住んでるなんてきっとギリギリの生活なんだって。しかもあのスケアグロウ大森林……誰も近付かない危険な森だったし。でも来てみたらビックリするぐらい暮らしやすくて、肩透かしも肩透かしだったよ~」

「来たら洗濯機とお風呂作ってるんだもんな。その辺の一般家庭よりしっかりしてると思うわ」


 少なくとも俺が子供の頃にいた家にはなかった。

 何もない場所だったけれど、ここみたいに暖かい場所だったな。


「ここからじゃなくてもクラインくんを支援することはできるからね。私なりのやり方で」

「心強いよ。それで、いつ頃帰る予定なんだ?」

「クラインくんたちの出発に合わせようかなって。それまで何が必要か調べておきたいし」

「了解。ありがとな」

「うん!」


 1ヶ月後、エルフ族は森の住人を招いて収穫祭を開催する。

 イリスは収穫祭までに俺の生活に必要な物をリストアップし、アンスバッハへと戻る。

 そして俺とモチは森の住人としてエルフ族の収穫祭へ参加し、エルフ族族長コルタナへと面会をする。

 それまでの間にできることをやるとしよう。


 まずは……そうだな。

 そろそろ台所を作るとしよう。


 だがそれにはまた素材集めをしなければならない。

 ただ、材料はそんなに必要ないと思う。

 クラフトブックに載っている台所は解放感溢れる東屋形式の台所だ。

 つまり柱となる丸太が4本と、屋根となる板があれば形にはなる。

 それと調理場となる場所。

 カウンターキッチンのような横に広いテーブルが置かれる予定だ。

 そこへグリル台や石窯とか置けば、もう完璧に台所である。


 そんな構想をしていたらいつの間にか拠点まで戻ってきた。

 改めて見ると本当に発展したなぁと思う。

 家が出来て、革細工用の東屋出来て、トイレもあって、橋もあって、お風呂小屋もあるし、洗濯機もあるし、洗濯した衣類も干されている。


「わぁ、干しっぱだった!」


 ぶら下がる衣類を慌てて下ろすイリス。

 気にしてたら今後1ヶ月の洗濯が難しくもなるが、俺も気にしてしまうのでこればっかりはしょうがないか……。


「乾いてた?」

「ばっちりだよ~。てか見ないで!」

「見ないでは無理だよ……」

「確かに……」


 昨夜、洗濯機に入れていた衣類を乾かすとのことでロープと、簡単な洗濯ばさみを作ってあげた。

 木から木へとロープを結び、洗った衣類を乾かすだけの簡単なものだ。

 洗濯ばさみはもっと簡単だ。

 適度な長さに切った枝を半分くらいまで切れ込みを入れるだけ。

 これで挟めば大抵の衣類は落ちなかった。

 ただ、ロープを少し巻き込んで留めなければいけなかったからハンガーを作らないと変な形で乾くことになる。

 手隙の時に作ってみるか……。


「今日はどうするの?」

「今日はついに台所を作ります」

「おぉ~!」

「でもまだ作れないのでその準備です」

「えぇ~」


 グリル台にせよ、石窯にせよ、材料が必要になる。

 幸いにもそういったもののレシピはハウジングクラフトとして開放されていた。

 しかもここ最近、忙しくて確認していなかったが、解放ボーナスも1つ獲得していた。

 今回のボーナスはこれまでとは違って、使うと現在設置しているクラフト品の耐久値が回復し、ブーストされるという内容だ。

 耐久値10000の家の耐久値が1000まで下がっているならそれが10000まで回復し、更に20000まで増えるのだ。

 一律倍だな。

 ちなみにこれが10000を下回って、補修した場合は10000で止まる。

 このボーナスがいつ解放されたのか分からないが、この間の襲撃の際に使えれば良かったと酷く後悔した。

 もっとちゃんと見ないといけないな……忙しく動くことだけが正解ではないのだ。

 また襲撃されることがあったら使おうと思って、自分を慰めることにした。


「それで、何を集めるの?」

「集めるというか、素材の作成がメインかな。特に集めるものはないよ」

「じゃあ適当に過ごすよ~」


 俺が土台道具の前に張り付くだけだ。

 それでも今日は夜までやることになりそうだった。

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