第41話 新たな可能性。
クラフトブックを膝の上に置き、作業台の上に腰を下ろす。
森の中でぽっかりと空いたところから見える空というのもなかなか面白い光景だ。
「ふわぁ……」
そら欠伸も出ますわなという具合に暇だった。
現在、俺は板材のクラフトをしている。
と言ってもしてくれているのはクラフトブックで、俺は選択して待っているだけだ。
台所を作る為には丸太4本と屋根になる板材、それから調理場となる板材が必要になってくる。
形としては革細工用作業台を置いた東屋と似ているが、こちらは少し横に長い。
それも理由があって、石窯やグリル台を置く為のスペースが必要になるからだ。
他にも調理に必要な道具や、保存しておく為の棚なんかも置く必要がある。
台所だけクラフトしても簡単な作業しかできないようになっていた。
石窯やグリル台は別枠だが必須のクラフトになってくる。
その為により多くの素材を加工しなければならなかった。
「結構増えたなぁ……」
待っている間はページを捲って他のレシピを眺めていた。
その中で今日あった発見は、レシピの中に【カスタム】という概念が追加されていたということだろう。
一見すると普通のレシピに見えるものだが、クラフト品が載っている絵柄の枠が二重になっているのを見つけた。
絵柄に触れると別ページに飛ばされ、同じような物だが形が少し違ったりするレシピが現れる。
鉄の剣なんかは普通の片手剣から細長い細剣や、どうやって使うんだってくらいでかい大剣が増えていた。
もう鉄の剣のレシピは【鉄の剣】というジャンルになっているようだ。
恐らく、これはクラフトレベルが上がったことで出来た新たなシステムだろう。
これを見つけた瞬間、頭痛がしてこのシステムの使い方を
なんて不親切な記憶なんだと腹が立つ。
絶対に何かに操作されている気がしてならない。
しかしそんな怒りよりも俺は記憶を優先した。
その中で見つけた最高のレシピ。
それは【水路】のカスタムだった。
一直線だった水路はカーブを描いたり、二又に分かれたり、幅が小さいものや広いものがあったりと一気に豊富になった。
これで何ができるかと言われたらそう、お風呂の水汲みである。
「ただ問題がなぁ~……」
俺が空を見上げていたのも、この問題を解決する方法を探して悩んでいたからである。
その問題とは水車をどうするかだ。
洗濯機の水車はお風呂よりも下流に設置している。
水路はカスタムできるようになったが、下流から上流に水を動かす程のカスタムはできなかった。
なんか水を貯めてちょっとずつ上流に流す方法もあるかもしれないが、そこまでの技術は俺にはない。
やはり設置位置を逆にするべきかとも考えたが、護岸工事までされた水車を動かした後がどうなるか分からない。
失った護岸が川の流れで削れてどんどん広がって……なんてのは最悪すぎるシナリオだ。
「もう一台置くのが丸いか……」
頭の片隅では答えは出ていた。
1台置くのも2台置くのも変わんねーべ、と。
材料のコストは跳ね上がってしまうが、労力と交換すると思えばコスト以上の結果が出てくるのは目に見えているし……。
「ま、とりあえず台所が先だな。植林も考えないといけないし」
考えることがいっぱいすぎて頭が変になりそうだ!
その中でもとりあえず山は糸口が見えただけまだマシである。
「ん、終わったか。次はレンガだなー」
以前もクラフトしたが、レンガもまた作業台でのクラフトになる。
土を消費してレンガを作る。
だがこのままでは土を練って形を作っただけで使い物にならない。
これをちゃんとしたレンガにする為には炉に入れて焼成をしなければならない。
その日の夕飯はイリスに任せて、俺はずっと土台道具の傍でクラフトを続けた。
翌朝、俺は眠い目をこすりながら木バケツに水を掬って顔を洗った。
「つめてぇ……」
冷えた川の水ほど冷たいものはない。
着ていたシャツで雑に拭ってから一度家に戻り、着替える。
まだイリスもモチもすやっすやだったので起こさないように慎重に素早く着替えた。
脱いだ服は洗濯機に放り込んだ。
まだ川の流れに沿って下流側に張り付いているだけだが、滑車を回して水車を下ろすと、ゆっくりと水が流れ落ち始め、やがて滝のようになる。
打ち付けられた水は水流を生み、洗濯槽内部に渦を作る。
張り付いていた服はそのまま流れに沿ってぐるぐると掻き混ぜられていく。
どうせ後でイリスも洗濯するだろうし、このまま放置でいいだろう。
干す場所は洗濯機のそばにある木と木の間のロープだ。
もうちょっと細い紐にしたいな……するか!
よくよく考えれば耐久値が0にならない限り壊れないんだからな。
もっと柔軟に考えないとな。
「こんなもんか」
長めの紐をクラフトして木にギュッと巻き付ければ完成だ。
簡単だけど、こういうのでいいなとも言える干し場だ。
「暇つぶしのハンガー作りはまた今度でいいか……さてと、そろそろ朝飯作るか」
簡単な朝ご飯を作ることにした俺はクラフトブックから山菜を取り出す。
それと肉。薄切りにしてフライパンで焼き、そこに山菜を添えるだけ。
本当に簡単すぎて泣けるが、今はこれくらいしかできないので仕方ない。
俺に料理スキルがないというのも問題だし、調理場が限られているのも問題だし、材料の種類が少ないのも問題だった。
「卵とか食べたいよなぁ……鳥か……鳥なのか……?」
「おあよ~……」
「あぁ、おはよう」
鳥小屋を作って毎朝新鮮な卵が採れたら最高だよなぁなんて考えているとイリスが起きてきた。
イリスが川へ行くのを見送っていると家の扉が開いてモチがのそのそと起きてくる。
こいつが一番お寝坊さんだ。なんて可愛いんだろう。
「おはよ、モチ」
「……」
「眠そうだなー」
のそのそと歩いてきたモチは俺のそばまで来るとその場に伏せて前脚の上に顔を乗せて寝ようとする。
椅子に座ってる俺の肘くらいの高さにある背中を撫でると気持ち良さそうに喉を鳴らすモチ。
平和だ……。
川から戻ってきたイリスに朝ご飯を出してあげ、モチには大皿に乗せたぶつ切りのウサギを半分だけ出す。
昔からそうだが、朝はあんまり食べないんだよな。
皆してもそもそと朝ご飯を食べる。
それが終わったら、クラフトの時間だ。
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