第16話 レザクラ作業台。
早速モチの力も借りて始めた素材集めだったが……。
「モチ、これはやりすぎだ……」
「……」
珍しく張り切っていたのか、モチが右前脚を持ち上げて左から右へと空間を薙いだところ、目の前に並び立つ木々がスパスパと切り裂かれていった。
もうスッパスパ。実に綺麗な断面である。
心做しか、モチも居心地が悪そうだった。
「まぁ、そのうち開拓しようとは思ってたから……うん、大丈夫だよ、モチ」
「……」
「はは、じゃあ切り株だけ引っこ抜いてくれるか?」
「にゃあん」
「うん、頼んだぞ!」
モチの膂力なら大変な切り株除去作業もすぐに終わる。
俺はモチが切り株を抜いたらそれをクラフトブックへと入れる補助作業をしていた。
ちなみに切り株は切り株という素材ではなく、【木】という素材へと変換される。
サイズによって変換量も変わってくるのは他の素材と変わらない。
「あ、モチ、その切り株は引っこ抜いたら家まで運べるか? 転がしてもいいから」
ひと際大きな切り株だった。テーブルにうってつけだ。
ただ、乾燥させる必要がある。
薪ならクラフトブックに入れれば即乾燥できる。
しかし、切り株は木に変換されてしまうから入れられない。
こういうところは不便なんだよなぁ……でも現実とはそういうものだ。
それに悪いことばかりじゃない。
自分の手で作ったものは耐久値が設定されないからずっと使えるしね。
多分、ちゃんと加工できるまで半年くらいか、それ以上掛かると思うけど、それくらいなら十分待てる。
「うん、そこでいいよ。ありがとう」
引っこ抜き、根を斧で断った後はモチに転がしてもらって家の前まで持ってきた。
少し歪な形はしているが直径が1mより少し大きいくらいの良い切り株だ。
しばらくは下に足を入れられないから立って使うとしよう。
そのうち樹皮も剝かないとな。
「さ、続き続き」
「にゃあん」
その日は日が暮れるまで切り株引っこ抜き作業と丸太収納作業を繰り返した。
そのお蔭で随分な量の木が手に入った。
土も良い感じに掘り返されて、畑にするにはちょうどいいだろう。
丸太は丸太でストックされているからいつでも【作業台】で加工できる。
これならもう一つ家が建てられそうだな。建てんけど。
次建てる家屋はもう決まっているしね。
「とりあえず明日だな。ご飯にしよ、モチ」
焼いた肉といくつかの山菜を食べ、その日はすぐにベッドに入った。
□ □ □ □
翌朝。
天気は快晴。降り注ぐ日差しのお蔭で森特有の湿気が薄らいでいる感じがする。
「木いっぱい切ったからかな?」
きっとそれもあると思う。
陰が少なくなれば乾燥もされていくだろうし、木が減れば風通しもよくなる。
これならちょっぴり気にしていたカビの問題も解決しそうだ。
ただし環境破壊にならない程度にしないとな。
開拓すれど破壊せず。
これを今後の標語にしよう。
さて、今日はついに……というにはあまりにも早く素材が集まったので少しクラフトをしよう。
「まずは革細工用作業台だな……」
俺は作業台の傍に立ち、クラフトブックを取り出す。
革細工用作業台に必要な素材は台にする為の板と木材がそれぞれ15個ずつ。
そして革細工用の道具でナイフ、ハサミ、針、糸、それと木槌、穴あけ器具がそれぞれ1つずつだ。
必要な素材を一つずつクラフトすると革細工用作業台の項目が選択可能となった。
「よーし、どこに置くかな……」
エタデだと移動の不便を減らしたくて1箇所に全部集めて固めていたが、景観は良くなかった。
これは現実。日々暮らす場所なのだ。
効率も大事だけれど、効率は楽しみを奪う。
「この辺りを作業場にしよう!」
敢えて家とは反対側の場所に設置することにした。
位置的には山を中心と設定したら左下にある。
まず、山の東に川がある。
その川の
山から見れば南南東の位置になるな……と言ってもそんなに距離はないが。
作業台と炉は家の前にあるが、これはそのうち移動する予定だ。
そして今回クラフトした革細工用作業台は山から見て南南西に置いてみた。
更にもう一つ。
「これで雨の日も大丈夫!」
簡素だが東屋のような壁無し屋根つき小屋のようなものを設置した。
正方形の屋根の四隅から伸びた柱がしっかり地面に食い込んでいて、多少の雨風なら防げそうだ。
「大雨の日に作業するようなこともないだろうしな……これで大丈夫だろう」
いざとなれば壁を作ればいいだけだ。
でも視界を塞ぐのもあんまり気持ちの良いものじゃないので東屋です。
試しに作業台の前に立ってみるが、視界もひらけていて心地良い。
モチと目が合うのも楽しかった。東屋、正解だな。
「じゃあ次は……」
視線を山へと移す。
随分穴も大きくなってきた。
殆どが土で形成されているこの山はあまり掘り進めると崩落の危険も出てくる。
だから掘るのは表面に近い場所だけなのだが、それでもかなりの鉄鉱石は回収できると思う。
ある程度掘って、危険だなと思えば購入する方向に考えなければいけなくなる。
「その頃になってお金があるか分からんけどなぁ」
本当のことを言うと山を掘るのは危ないからしたくない。
知識なんか全然ないし、いつか事故を起こしそうだし。
「町で業者を頼んで全部崩すのも手かもな……いやー、工賃も人件費も出せんな……手持ちがなさすぎる……」
どこかにとても裕福で優しい人がいないものだろうか。
いるわけがなかった。
「まぁとにかく準備をしよう。革なら鹿革も兎革もあるし。そんでクラフト以外の時間は鉄鉱石掘りだ!」
町で買い物するにはお金が必要だ。
そしてお金を得るには何かを売らなければならない。
クラフトして本の中にストックしてある物は耐久値があるから売れない。
だから売るのは素材だ。
革や肉もそうだが、一番は鉄鉱石だ。
量があればお金になるはず……それにスケアグロウ大森林はエタデでも終盤の採取場だった。
つまり、鉄の品質も最高峰という訳だ。多分
「誰も開拓しない未開の森だから知られてないんだよな……そして知られてないだけで素材になりえる物は沢山ある!」
鉄を掘り、森を探索してレアな素材を見つける。
そしてここで活躍するのがとっておいた【解放ボーナス】だ。
今現在、俺がストックしている解放ボーナスは2つ。
1つは今ある素材を一律プラス30個してくれるボーナス。
そしてもう1つは一律プラス50個である。
つまり、何か一つでもレアアイテムを見つければ一気に80個もプラスすることができるのだ。
この為に残しておいたと言っても過言ではない。
しかし問題はそのレアアイテムだ。
このスケアグロウ大森林には多くのレアアイテムがある。
以前訪れた素早さの泉を始めとする【各種ステータスアップの泉】。
森を流れる川に潜み、三日月が出る明け方だけ姿を現す巨大魚、【クレセントトラウトの輝鱗】。
そして誰かが埋めたのかと言われるくらい、場所を選ばず唐突に出土する宝石【サンライズハート】。
この中で一番簡単なのは泉の水の採取だ。
でもこれが広まるのはあまりよろしくない。
「うーん、悩みどころだな……」
ひとまず、装備を整えるところから始めよう。
戦うことはないとは思うが、戦える格好にしておくのは大事だ。
それにまだまだ作らなきゃいけないものもあるし。
ということで俺は一旦食事にする為に腰を上げるのだった。
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