第29話 ゴブリンによる被害。
まずは状況整理だ。
家は元に戻した。
家の中は耐久値が0にならない限り、外からの干渉を受け付けないから問題ない。
東屋は完全に倒壊して瓦礫になっている。
外に置いていた道具は作業台の上に置いていたのも含めて軒並み奪われた。
「モチ、周辺にモンスターは?」
「にゃあん」
「マジかよ……」
「モチちゃん、なんて?」
イリスはまだモチ語を習得してないからか、尋ねてくる。
「俺たちの家を壊したのはこの森に住む【アルターゴブリン】っていうモンスターらしい。足跡がアルターゴブリンのものだそうだ。そして俺たちがちょっと町に行った隙に近くに拠点も構築してるらしい。匂いが濃すぎるって」
「にゃあんの一言でその情報量!?」
モチ語は最大限の言葉を省いて超最適化された言語だ。
なので一言でどんな言葉も表現できる。
「でもアルターゴブリンか……厄介だね」
「あぁ、これじゃあおちおち買い出しもいけない……それどころか素材回収だって難しい」
近くに拠点を築いたってことは、また襲う気満々だ。
アルターゴブリンはそういう狡賢さがぴか一だ。
なにせゴブリン種でありながら他のモンスター以上に知識が高い。
ゴブリンは馬鹿だなんて嘲笑う冒険者は一瞬で刈り取られるだろう。
「恐ろしい場所だね、スケアグロウ大森林」
「まぁな……」
流石はエタデ終盤周回エリアだ。
出現するモンスターも最上級。
森から出ることがないのが唯一の救いだった。
「それで、戦うの?」
「もちろん。良いお隣さんとは言えないからな」
俺はこの森を自分がとても住みやすい場所にする為に日々こうして頑張っている。
その道を阻むのであれば、どいてもらうしかなくなる。
それが話の通じない相手ならば、尚更だ。
「分かった。で、今から行く?」
「夜襲は効果的だけど、流石に疲労がでかすぎる。今日は休もう」
「じゃあ見張りを……」
「その必要はないよ」
家の中なら襲われることはない。
ただ、襲ってきたら耐久値が減るだけだ。
「とりあえず今日はゆっくり休んで、また明日考えよう」
「何かよく分からないけれど、分かった!」
耐久値がある限りは完全無敵の要塞になるので、この点だけは安心して、俺たちは眠りについた。
もちろん、ちゃんとイリスのベッドもクラフトしました。
□ □ □ □
翌朝、疲労からの目覚めはとても良かった。
状況はどうあれ、睡眠はとても大事である。
「しかし足の踏み場もないな……」
ベッドの上で溜息を吐く。
原因は昨夜、寝る前に緊急搬送した購買品である。
家の中は完全に安全とはいえ、外はそうでもない。
せっかく買った物を奪われてはたまったもんじゃないと、荷車すら家に中に突っ込んだ。
新たにイリスのベッドも作ったことで手狭になっていた家は更に狭く、文字通り足の踏み場もなかった。
俺は近場にある荷物をベッドの上に置くことと引き換えに道を作る。
なんとかギリギリ歩けるスペースを作って外に出るが、特に変化はなかった。
「モチが帰ってきたから襲うに襲えない……そんなところかな」
これなら中に入れなくてもよかったかもしれないが、結果論だ。
一先ず俺は改めて被害をチェックすることにした。
「昨日は暗くてあんまり見えなかったが、酷いな……」
ひっくり返っていた作業台はとりあえず戻していたが、上に乗せていた道具類はない。
エタデではセットで作業台として機能していたが、現実世界では文字通り、台のみでも稼働するからまだ助かる。
が、それはそれとして道具自体も必要なので、クラフトブックに仕舞い、解体を選択する。
そしてまた新たな作業台を同じ場所に設置した。
次に確認したのは炉だ。
見た目は問題ないようなので、膝をついて炉の中身を確認して、俺は酷く後悔した。
「うっわ……最悪……」
炉の中にはアルターゴブリンのものらしき糞が詰まっていた。
マジで最悪。本当にぶっ殺してやりたい。
泣く泣く俺はクラフトブックから炉を収納し、分解を選択した。
「うわぁ……うんこもストックされた……」
【糞】というストレート過ぎるネーミングのアイテムがなんと30も追加されてしまった。
糞だけにクソ腹立つ。
……が、悲しいかな、糞は肥料の材料として有能なのだ。
こういうエピソードがなければ有難いものではあるのだが、素直に喜べないのが辛かった。
ちなみに普通なら牧畜などで動物から採取するのが一般的だ。
解体した炉は素材となった。
そしてその素材を使って同じ場所に新たな炉をクラフトした。
一応は、元通りである。
「動物を飼うにもやっぱりゴブリンは邪魔だな……」
平和で安全で文化的な暮らしが俺の目標だ。
その為にも危険分子には消えてもらうしかない。
ちなみに炉の隣に置いていた金床は少し傷が見えたが問題なさそうだった。
流石は鉄の塊だ。
次に革細工用作業台の方を見に来た。
東屋は昨日の段階で完全に倒壊しているのは見ていたが、実際に見てみると酷い有様だった。
「バッキバキだな……」
東屋は家程の耐久値はないにしても、建物という時点でそれなりに高い耐久値を持っているクラフト品だ。
なのにこの有様だ。
その瓦礫に埋もれた革細工用作業台はうつ伏せになっていた。
壊れた東屋を片付けて作業台を起こす。
やはりこちらの道具類もなくなっていた。
「本当に腹が立つ……」
せっかく頑張って作ったものが壊され、奪われることの辛さ。
それは何にも代えがたい怒りとなって俺の中に蓄積されていった。
革細工用作業台も一度解体して再設置して元通りにし、東屋も建て直した。
見た目は以前と変わらない。
だけどこれが1度壊された事実も変わらない。
「にゃあん」
「モチ、おはよう」
寝起きで少しまだ眠そうだが、しっかりとした足取りで俺の傍までやってきたモチが撫でろと言わんばかりに頭を擦り付けてくる。
その大きな頭(悪口じゃないよ!)を抱き締めるように包み込み、吸って、俺は心を落ち着かせるのだった。
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