第15話 町に行くには。
町に出る。そう決めたはいいものの、手段はどうしたらいいのかずっと考えていた。
まず身なり。
服はまぁ、洗濯すれば大丈夫だろう。
焚火から採取した灰と、スケアグロウ大森林に生えている木の実には石鹸になるものがある。
それで服も体も頭も洗ってしまえば、町に行く分には問題ない。
次に手段だ。
この森から隣領まで道はない。
だだっ広い草原しかない。
でも隣国との行き来をする為にこの森を迂回して通っている『ヘレンミラー街道』という大街道に出ればアンスバッハまで辿り着ける。
問題はその大街道へ出るまでの道のりだ。
「モンスターも出るだろうしなぁ……馬車もないし距離もある。何日も掛かると洗濯の意味もなくなっちゃう」
多少の汚れは仕方ないにしても、身分がない。
せめて第一印象くらいは良くておかないと入れてもらえるかも怪しい。
だが綺麗すぎるのも怪しい。
うーん、難しい。
「変な物さえ持ち込まなきゃ入れるとは思うけど、不安だなぁ」
親に捨てられた身だ。
何があるかも分からない。
そして問題はもう一つ。
「モチ~。お留守番できるか?」
「……」
モチである。
返事はしないが聞こえてはいる。
その顔はどう見ても大人しくお留守番しますって顔じゃなかった。
確かにモチに乗っていけばあっという間にアンスバッハへ着くだろう。
でもモチは希少な種族で、人目に晒したくなかった。
「モチ、お前は自分がとてもレアな生き物だって理解してないんだ。突然麻酔矢なんかで射られて誘拐されたらどうする?」
「にゃあん」
「え? 効かない?」
首を振って否定するので聞き返すと首を縦に振って答えるモチ。
この何週間かでモチが完全に俺の言葉を理解しているのは知っていたが、まさか麻酔が効かないとは……手術の時とか大変そうだな。
だがモチは少し考えるような素振りをしてから、爪で地面に横に一本線を描いて、それを手でペチンと叩いた。
「……もしかして、麻酔じゃなくて矢が効かないのか?」
「にゃあん」
今度はさっきよりも嬉しそうに鳴いてくれた。
なるほど、もう完全に猫の感覚だったがこの長い毛も竜の毛となればその辺の攻撃なんて全然効かないだろう。
「そうだな……よく考えればモチを捕まえようってのがそもそも無理な話ではあるか」
「ふんふん」
得意げに鼻を鳴らすモチ。
しかし密輸業者がどんな手段を使ってくるかなんて分かったもんじゃない。
油断は大敵。しっかり準備していくのが無難だろう。
ということで俺は新たな『
今回作ろうとしているプラットフォームは2つあって、一方は鉄のみで作られる非常に重いレシピとなる。
もう片方は鉄を少々使うが主に作業用道具として素材にされるものだ。
例えば作業台は木材の他にハサミや金槌といった道具を使ってクラフトされている。
今回作るプラットフォームは『金床』と『革細工作業台』だ。
「鉄の剣が生み出せるようになったのに今更金床なんて、って顔してるなぁモチ」
「……」
実際にはしていない。
「でもこの金床があれば耐久値を倍以上に伸ばせるんだ。それに性能もアップする。バージョンアップ用のプラットフォームなんだぜ」
「……」
まったく興味のない顔をしていた。
しかしこの金床はこれから生きていく上で非常に重要だった。
金床があれば生み出した剣の耐久値を伸ばし、切れ味を良くし、更に別の素材を加えて強い剣にすることもできるのだから。
ただ、作る為に鉄が30個も必要で、これは今の俺には少し痛い。
何故ならば製錬した鉄は殆ど作業道具にしてしまったからだ。
鉄を掘る為のピッケルにシャベル。
木を切る為の斧。
作業台を作る為に消費したハサミと金槌を、別で1つずつ。
将来的に作ろうと思っている畑仕事用の
あとは都度交換できるように釣り針も沢山作った。
それから矢じりもだ。羽がないからまだ矢は作れないが。
このように鉄とは消耗品なのである。
ゆくゆくは金床を作る為に鉄を掘らなきゃなぁとは思っていたが、こうも早く順番が回ってくるとは思っていなかったから痛手なのだ。
「モチも手伝ってくれてよな~。ほら先にご褒美をあげるぞ。ほっぺぐにぐにしてあげよう」
「……」
「いってぇ! 噛むな!」
そしてもう一つの
これは読んで字のごとく、革細工専用の作業台だ。
元々これは専用ジョブである革細工師が使う作業台なのだが、俺でも作れるということはその辺りの垣根は撤廃されてるっぽい。
なら調理レシピも出してくれよと思うが……言っても仕方のない話である。
「モチにも手伝ってもらうからな、頼むぞ」
「にゃあん」
「うん、頼りにしてる!」
モチの力があれば千人力だ。
さぁ、早速今から集めるぞ!
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