第8話 そろそろ限界が近い。
ぎゅるるるるる……という胃からの呼び声で目が覚めた。
それに抵抗するように眠ろうと寝返りをうつが、胃袋は食べ物を急かしてきた。
結局眠れず、のっそりと起き上がった俺はテントから這い出る。
外はまだ薄暗い。夜明け前くらいだろうか。
「……腹減った」
スイートベリーで場を繋いだとはいえ、あんな小さな木の実ごときで育ちざかりの俺の胃袋を満たせるはずもなく。
そろそろ空腹が限界に近いところまできていた。
何か食べたい。何でもいい。腹いっぱい食べたい。
「炉……だな。鉄鉱石をどうにかしよう」
鉄鉱石を鉄にさえできれば。
その思いで立ち上がった時、テント裏の茂みがガサリと揺れた。
モンスターかと思い、俺はその場に固まってしまう。
このスケアグロウ大森林には動物も沢山生息しているが、それと同じくらいモンスターも多い。
何故かここに来るまで遭遇しなかったが、それは白猫竜がいたからだ。
あのレアモンスターは恐ろしく強い。
強いからこそ、弱いモンスターは逃げ出す。
こんな浅い層ならば尻尾を巻いて逃げていっただろう。
「でももう白猫竜は帰った……一晩経てば逃げてたモンスターも帰ってくるよな……?」
疑問符をつけるが答えは返ってこない。
モンスターか、動物か。
できればまた白猫竜だったいいな……なんて思っていたが、結局茂みから何かが出てくることはなかった。
動物か何かが俺の気配に気付いて逃げた……そんなところだろう。
「怖かった……もっと安心して暮らせるようにしなきゃだな」
こんな木組みのテントなんて一撃で粉砕されてしまうだろう。
そこも課題だが……まずは炉から始めよう。
俺は手の中にクラフトブックを取り出し、ページを捲る。
「石30個……頑張って集めた石全消費だ」
テントの近くに黄色いホログラムが見える。
そのまま頭の中で作成を念じると、石で組まれた炉が出現した。
炉には既に火が入っているが、これも焚火と同じで最初だけだ。
消えたら次は自力でつけなければいけなくなる。
「今のうち、今のうち!」
炉の前でクラフトブックを開き、専用レシピである【鉄】を選択。
クラフトブックのストレージ内から中鉄鉱石が消えた。
鉄鉱石が消えた先はもちろん、炉の中である。
ジッと見つめると【60:00】という表記が出てきた。
数字は1秒ごとに1ずつマイナスされていく。今は59:55だ。
「1時間か……長いな」
思っていた以上に長かった。
エタデならちょっと別の作業をしている間に終わってたが……。
「これが現実とゲームのバランスかな。普通、炉に突っ込んだだけで鉄鉱石が鉄になる訳でもないし」
それがクラフトブックの良いところの一つでもある。
悪いところは作ったものに耐久値が設定されているところだ。
整備する必要がない代わりに耐久値が減ると思えば助かるのか、それとも助からないのか……。
ともかく俺は横になって時間が経つのを待つことにした。
□ □ □ □
安心感からかいつの間にか寝てしまっていたようだ。
テントから這い出てくると炉の火は消え、白い煙が立ち昇る。
「どれどれ……おぉ! 出来てるやん!」
火が消えた後の炭の中にキラリと光る鉄を見つけた。
中くらいの鉄鉱石から作り出された鉄は少し小さくなったが、これでも中サイズの鉄となる。
早速クラフトブックの中に入れると【鉄14】と表記された。
「ミドルサイズの最大数が15だからかなりの上振れだな。ありがてぇ……!」
これで様々なものが作れるようになる。
クラフトブック内も鉄のストック量が増えたことをトリガーに、コップ以来の色々な鉄製品のレシピが解放されていく。
「貯めてた解放ボーナス、使う前に増えちゃったな」
鉄剣、鉄槍、鉄盾と鉄装備の中でも比較的コストの低いものが解放されていく。
それに加えて細かいクラフトレシピも解放されていき、全部合わせて25個のレシピとなった。
本当に鉄が大切すぎる。
「更にここで最初の解放ボーナスを使えばストックがプラス30されるが……まだだな」
できれば食材もストックしてから使いたい。
このクラフトブックは料理のレシピも解放できるのだ。
ただし、エタデでは料理設備の前でないと使えなかった。
先程、炉の前でやった専用レシピを使った専用クラフトだ。
「どっちにしても、やるべきことは多いな」
鉄はこれからもずっと集めないといけないし、この空腹も満たさなければならない。
「よし、釣り竿と釣り針を作成!」
この間のコップの際に解放されていた釣り針の出番がやってきた。
目の前に釣り竿が1本と釣り針が3つ作成される。
釣り竿は先っぽに結んだ糸が垂れるだけの粗末なものだ。
もっとクラフトレベルが上がればリール付きの竿なんかも作れるようになるが、まだまだ先の話だ。
「……うん、これでいいな。あとは餌だけど……」
糸の先を針の穴に通して結んだ後はその針に掛ける餌の用意だ。
俺は立ち上がって川へと向かう。
昨日は溢れんばかりに増えていた水量はもう落ち着いていて、多少の濁りはあるが中に入れるくらいには流れの速さも戻っていた。
一旦、手にしていた竿を置いてズボンの裾を膝上まで捲くる。
「さてと……うひぃ、冷たい……!」
一歩入ってみるがとても冷たかった。
我慢してもう片方の足も入れて、腕まくりをすると近くの石を持ち上げた。
「おぉ、いるねぇ」
持ち上げた石には何かの虫がひっついていた。
逃げようとするそれを掴んでクラフトブックの中に閉じ込める。
【川虫1】の表記が出てきた。
「よしよし。餌は多ければ多い程いいからな……」
俺はしばらく夢中になって石をひっくり返しては虫を捕まえていた。
どうしてもこういう
俺がじゃばじゃばと動くたびに魚が警戒して逃げていることに気付くのは、糸を垂らしてしばらく経ってからだった。
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