第49話 休みながらも休みなく。

 翌日、新芽から伸びきった木を伐採し、前日に伐採した切り株から伸びた新芽を回収した。

 イリスが持ってきたアワの木の枝はお風呂と洗濯機と台所の横に植え、無事に成長を確認できた。

 今後は石鹸に困ることもなさそうだ。


「ふぅ……やっと終わった」


 俺は最後の新芽を植え終えて曲がったままだった腰を伸ばして一息つく。

 切り株からは思った以上に芽が伸びていてびっくりした。

 その新芽一つ一つを丁寧に切り取り、植えて肥料を与えた。

 等間隔に少しずつずらしながら植えることで切り倒す時に別の木を巻き込まないようにしてみた。

 伸びる長さに違いがあると多少の干渉はあるかもしれないが、ちゃんとした方向に倒す分には問題ないはずだ。

 こうして植林事業も好調なスタートを切れた。

 今後はよっぽどのことがない限り木材に困ることはないだろう。

 植林場は橋を渡ってアルターゴブリンたちがいた平原に向かう道中の左側に作った。

 つまり北側だ。

 道を挟んだ南側も木を伐採して広いエリアがあるが、ここを放牧場にする予定だ。

 一応柵も作る予定だが、まだ先になる。

 それよりも先に小麦の生産をしなければならない。

 農耕エリアは家の裏手、最初にモチが伐採した空間だ。

 日の光を浴びて土も落ち着いた頃だろう。

 最近じゃ草の新芽が伸びてきていて栄養は満点な雰囲気だ。

 灰を撒けばもっと良い土壌になるだろうし、そうする予定である。


「楽しいなぁ……やることがたくさんあって楽しい」


 もちろん、ちゃんと休憩もする。

 働き過ぎて体が壊れるのだけは避けたい。


「明日はお休みにしようかなぁ」


 最近はずっと天気もいいし、休憩の日にしてもいいかもしれない。

 何なら町に行ってもいいかもな。

 買わなきゃいけないものもあるし、パンの作り方も知りたい。

 そうそう、酵母に関しては順調だ。

 毎日決まった時間に同量の粉と水を足して煮沸したヘラで掻き混ぜている。

 お蔭様で発酵が進んでいる。

 もう少し発酵が進めばパンに入れて焼けるだろう。

 その為にもちゃんとしたパンの作り方を学ぶ必要があるというわけだ。

 でないとこれまで頑張った……というほど頑張ってはいないが、無駄にはしたくない。

 明日の朝に酵母に餌を上げてからアンスバッハに行って、作り方を聞いて、買い物して、戻ってきて仕込んで……でちょうどいいくらいか。

 そんで翌日にでも焼けば最高のパンができそうだ。

 その為には今日やるべきことをやるとしよう。


「増えた丸太を板材に加工して、っと……」


 作業台の前でクラフトブックを開き、昨日伐採した丸太と、今日伐採した丸太を板材へと加工していく。

 お蔭様で板材の量は結構な数字になった。


「地道に貯めてたとはいえ、一気に増えたなぁ」


 植林した丸太6本を全て板に変えたところ、一気に240ほど増えた。

 こういう大胆な消費ができるのも、増やすということができるお蔭だな。

 更に残りの5本を木材へと加工する。

 この木材と板を使って俺が何を作るのか……それは水車と水路である。


「2台目の水車かぁ。いよいよ発展してきたな」


 お風呂の為の水車だ。

 もちろん、水路は先日発見した水路のカスタム機能でお風呂場まで流れていくように作るつもりだ。

 材料を投入して、まずは水路を組み立てる。

 クラフトブックにストックできたらまずはホログラムで水の流れをイメージしていく。


「水の流れは問題なさそうだな……」


 水路単体でも設置はできるようだが、これは水車の位置と調整しなければならないのでまだ設置はできない。

 でもちゃんと傾斜の調整もできるようだったし、向きもばっちりだ。

 水車を作成できたら設置するとしよう。

 またクラフト時間が長いのでそれを予想して先にトイレを済ませ、サンドイッチを作ることにした。

 パンも半分を切ってもうあと1食分くらいだ。

 もちろんトーストにして、挟む具はすっかり忘れてたシルバーフィッシュを捌いて塩で焼いてみた。

 このシルバーフィッシュはガチャ岩を解放ボーナスで増やした時にうっかり増やしてしまったものだ。

 色々立て込んでたのもあるし、ボーナスで増やしたから自分で捕った実感がなくてすっかり忘れていた。

 メインはガチャ岩だったし、余計に忘却に拍車がかかってしまった。


 クラフトブックに仕舞うまでは生きていたが、取り出したシルバーフィッシュは新鮮な状態で息絶えていた。

 クラフトブックに素材として登録されているから収納することができたが、生き物を入れるというのは改めて考えると少し怖い。

 しかし調理レシピが存在しないのになんでシルバーフィッシュとして登録できたのだろう……これも何か理由があるのだろうか。

 例えばだが生きる為に必要な食事という行為をゲーム的に済ませてほしくなかった、とか?

 ほしくなかったって……誰が?

 ゲームデザイナーが?

 それとも……神様?

 考えれば考えるほどに頭の中は混乱していく。


「うーん……分からないことを考えてもしょうがないな」


 捌くのが下手でボロボロになったシルバーフィッシュの両面に塩と胡椒を振る。

 使い終わった塩と胡椒の壺の蓋を戻し、フライパンを取り出してグリル台の下に焚火をセットする。

 魚を焼くだけだから薪は必要ない。

 十分に温まったフライパンに魚を乗せた。

 乗せてから、気付いた。


「油ないじゃん」


 これまでは肉だったから余分な脂肪を使って油代わりにしていたが、魚にはそういう利用法がなかった。

 肉なら多少引っ付いてもヘラでゴリゴリすれば良かったが、魚はそうもいかない。


「油も買わなきゃな……ていうかなんで買わんかったんや……」


 考えたらわかるやろと過去の自分に叱責するが、過去の自分はどこ吹く風で知らん顔だった。

 結局ボロボロになった魚を寄せ集めて完成とするしかなくなった。


「明日買うしかないなー」


 焼けた魚群をパンに挟み、できあがったサンドイッチを皿に乗せて作業台まで戻ってきた俺はクラフトを始めた。

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