第18話 昔の勘は外れない。

 今日も今日とてピッケルを振り回すクラインです。

 今回掘っているのは5号洞窟。

 名付けは特に意味はなく、ただ5番目に掘り始めた穴というだけだ。

 ただ、今日の成果はどこかおかしかった。


「またミドルサイズだ……どうなってるんだ?」


 掘れば掘る程に鉄鉱石が出てくる山ではあるが、そのサイズはスモールサイズが殆どだ。

 クラフトブックに入れれば【小鉄鉱石】と表示されるのがほぼ確定しているようなサイズばかり。

 なのに今日に限って、出てくる鉄鉱石はどれも【中鉄鉱石】だった。


「これ、なんかあるな……」


 鉱脈に当たったか、それとも……。

 そういえば以前、似たようなことがあった。

 エタデ内で、こことは違う場所でファーム作業をしている時だ。

 その時はエクスマキナ古戦場跡というエリアで【ギガントマキナのコア】というアイテムを手に入れる為にクソデカ金属ゴーレムの討伐を繰り返していた。

 ギガントマキナからは様々なアイテムが入手できるが、コアは出現率が低いアイテムだった。

 なので気合いを入れて挑んだのだが、倒すギガントマキナからどんどんコアが出てきた。

 10体倒せば8個は手に入るという異常事態だった。

 これは何かあると思い、寝る間も惜しんで休憩もせずに倒し続けていたところ、更に出現率の低いアイテムである【チビギガントマキナ人形】が手に入ったのだ。

 でかいのか小さいのか分からないこの人形は、使うとギガントマキナをデフォルメしたようなデザインの自動追尾ペットが召喚できるアイテムだ。

 これがもうめちゃくちゃ人気で、コレクターはいくらでも出すようなアイテムだった。


「今はその時と同じような波が来ている気がするな……よし、続けよう」


 今は絶対に手を止めちゃ駄目だと俺の勘が告げていた。

 昼食もとらず、休むこともせずに必死にピッケルを振り下ろす。

 足元に転がる鉄鉱石は靴の裏で踏んで後方へと転がしていった。

 まるでエタデの時のようだった。

 ガチャ岩を掘る為の山だったから鉄鉱石はハズレ扱いだった。

 今の俺はあの時と同じ、廃人となっていた。


 そうして日が暮れるまで掘り続けた結果、俺はついにそれを見つけることができた。


「やった……あぁ、やったー!」


 たった1個。

 やっと1個。

 しかし確かな1個。


「ガチャ岩だー!」


 土の中から見つけ出したガチャ岩を抱えて俺はフラフラになりながら小躍りをしていた。

 体中土だらけで、全身が筋肉痛だ。

 だがそれでも体は喜びを持て余していた。

 モチは俺を気持ち悪い動きをする虫でも見るかのような目で見ていたが、まったく気にならなかった。


「1個手に入れば80個♪ 1個手に入れば80個♪」


 そう、解放ボーナスはここで使う。

 1回のチャンスを81回のチャンスへと引き上げるのだ。


「あ、モチ、魚1匹取ってくれないか?」

「……」


 気持ち悪いものを見るような目のモチは川へと向かい、その大きな前脚で川を薙ぐように叩く。

 すると活きの良い魚が1匹、僕の足元まで飛んできた。


「ありがとう!」


 モチは返事もせずにもう一度水を叩く。

 弾かれた水がバシャリと俺に全部掛かってびしょ濡れになってしまった。


「……そうだな、もう土だらけだよ」


 モチはあまり鳴かないが行動で示すタイプの子だ。

 俺があまりにも汗と土に塗れていたから綺麗にしろって言いたかったのだろう。

 決して意味もなく俺に水を掛けるような子じゃないからな。

 ……あれ、でもそれは前世のモチの特徴だったが……こっちのモチもそうなだけか。


 余計な考えは捨て、俺は魚をそのままクラフトブックに仕舞い、服のまま川へと飛び込んだ。



             □   □   □   □



 いつかのように焚火で服を乾かしながらクラフトブックを取り出す。

 開いたページに記された項目は【解放ボーナス】。

 俺はそこにある1と2の項目を選択した。

 すると本は独りでに浮かび上がる。

 白い光に包まれながら、パラパラと勝手にページが捲れていく。

 それはほんの数秒続いた。

 その後、光は収まり、本が俺の手の上に下りてくる。


「……うん、ちゃんと増えてる。やったぜ」


 在庫を確かめると、確かに全てのストックが一律80個プラスされていた。

 先程入手したガチャ岩は81個。

 モチに取ってもらった魚も81匹になっていた。


「ん? あ、しまったな……」


 俺は魚の項目を見て思わず額を手の平で押さえた。


「シルバーフィッシュのまま増えてる……やらかしたなぁ」


 モチが取ってくれた魚、シルバーフィッシュを下処理せずクラフトブックに仕舞ったことで食材としての【魚肉】にならなかったのだ。

 何の処理もされてない、活きの良いシルバーフィッシュが80匹も増えてしまった。


「食べる時にいちいち下処理しなきゃいけないのは面倒だなぁ」


 まぁ、増えたもんはしょうがない。

 練習になると思って諦めよう。

 さて、肝心のガチャ岩だ。


「とりあえず1つ、割ってみるか?」


 割らなければ価値は生まれない。

 ということで金槌を取り出した俺はガチャ岩へ向けて振り下ろした。

 バキン! と音を立てて岩は砕けた。

 後には何も残らず、散らばった岩の欠片が残るのみだ。


「ハズレか……ま、期待はしてなかったけど」


 1発目から出てくる程簡単な確率でないことは理解していた。

 でもあと80個ある。

 そう思うと何だかワクワクしてくる。

 だってエタデでもこんな数を抱えて一気に割ろうとする奴はごくごく少数だった。

 やるとしても俺みたいな廃人ファーマーくらいだ。


「最大で500個集めて割ったなぁ……あれは地獄だった」


 1年近くかけて集めたガチャ岩500個を割るという何にも代えがたい興奮は、あれ以来なかった。

 だが今日、今この時はあの日を彷彿とさせる気持ちの高鳴りが確かにあった。


「よーし、服が乾いたら全部割ったるぞ!」


 俺の意気込みにモチがダルそうに溜息を吐いた。

 ま、これは実際にエタデを遊んだ俺にしか分からん感情だ。

 モチにはまだ早い。

 俺は服を乾かすついでに焼いていた串焼肉をほおばりながら、出てくるかもしれない魔宝石に思いを馳せるのだった。

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