第17話 山を掘る意味。
クラフトが楽しみすぎて後回しにしていた食事を済ませた俺は、ピッケルとシャベルを手に山へとやってきた。
見上げた山は大きく、これを崩すにはやはり多くの人の手が必要だなと改めて思う。
だが人をここに入れたいという気持ちが起きない。
せめて森の住人なら……うーん、いるにはいるが。
「ま、今は作業だな」
最初に山を掘り返した時は木の棒だった。
それも大雨でぬかるんだ場所を少し掘っただけだ。
でも運良く鉄鉱石を見つけて、道具が作れるようになってからは結構掘り返したな。
今では俺の背丈より大きいくらいの穴にまで広がった。
これはピッケルを振る為だ。
横幅は大体俺を3人並べたくらいで、奥行きは……そうだな……3mくらいだろうか。
これでも結構掘った方だ。
お蔭様で結構な量の鉄鉱石が産出した。
といっても最初に掘り出したミドルサイズの物は全然出てこない。
掘る程にあれが奇跡だったのかと思ってしまうくらいには小粒なものが多かった。
「ふんっ!」
これ以上深く掘るのは怖かった。
いつかこの山を崩すとしても、崩れるような掘り方はしたくない。
実際、掘りすぎたなと思ってるくらいだった。
なので今日は新しく穴を掘ることにした。
場所は入口の隣で、山が崩れないように大き目に幅を取ってピッケルを振り下ろした。
最終的には歯車のような形になるイメージだ。
均等に掘っていけば崩れる可能性を低くできる……だろう。
「ふんっ!」
なんだか新しい場所にピッケルを振り下ろすというのは新鮮な気持ちがして楽しい。
ずっと穴を掘っていたけれど、もしかしたら何か新しいものが出てくるんじゃないかって、そんな気持ちになる。
だから夢中になってピッケルを振れた。
そして足元に土が盛り上がって歩きにくいことに気付き、慌ててシャベルに持ち替える。
ザクッと差し込んだシャベルを持ち上げ、あらかじめ地面に広げておいたクラフトブックの上へザラザラと落としていく。
そうするとクラフトブックに土がどんどんストックされ、掘り返して発生した残土問題を解決できる。
この土はレンガになったり、水と合わせて泥にして何かの繋ぎにしたり、はたまた陶芸なんかにも使えたりする。
土には無限の可能性があるのだ。
土が処理できたら再びピッケルに持ち替える。
そして壁に向かって振り下ろす。
本当にこれの繰り返しだ。
エタデでも同じだった。ずーっと同じことの繰り返し。
毎日毎日、ずっとやっていたっけ。
何が楽しいのかと聞かれると答えるのは難しい。
同じ作業をして、時々珍しいものが出てきて、それが新たなストーリーに繋がったりして……それが楽しかったのかもしれない。
「疲れた……休憩だ」
でも今は生きる為にやっていた。
枝を拾い、魚を捕り、山を掘って、何かを作る。
こうして雑に腰を下ろして見上げた空は、晴れていても曇っていても、清々しい気分だった。
結局日が暮れるまで俺はずっと掘り続けていた。
こうして一日中動ける体力があるのは悔しいがエオニス家でシバかれ続けた結果なのかもしれない。
しかしお蔭様で鉄鉱石がゴロゴロと土の中から出てきてくれた。
新しい場所を掘ると新しい発見があるのかもしれない。
「これからは満遍なく掘っていくのもいいかもしれないなぁ」
この山は鉄鉱石ばかり
と、話題になってエタデのどのサーバーでも皆が世話になっている場所だった。
だが本質はそこじゃなくて、本来は鉄なんて必要ないのだ。
なら何故この山を掘るのか。
皆、鉄以外のものを求めて掘っていたのだ。
それは丸い石の形をしているのだが、割ると中に宝石が詰まっていたりする。
そう、ガチャである。
そしてモチが見つけたアクアサファイア。
あれがこの山にガチャが埋まっている証拠でもあった。
何故ならばあのアクアサファイアも、ガチャの景品だからだ。
最初は理解が追い付かなくて気付けなかった。
モチがそばにいたことで頭の中がいっぱいいっぱいになって忘れていた。
「多分、何かの影響でガチャ岩が転がり落ちてヒビが入った状態で川の中へ入ってしまったんだろうな」
そしてそのまま流れのままに下流へ……南東へと流れていって、モチが見つけたのだろう。
そんなレアな出会い方をしたガチャ岩だが、これが本当にレアで、なかなかお目にかかることができない。
一晩掘り続けて1個か2個という出現率だ。
しかもガチャなので良いものが出るかどうかも運次第という鬼畜設定。
このガチャ岩から排出される素材は終盤で使うような素材なので今は必要ないのだが、その多くは魔宝石類だった。
今も家に飾ってあるモチとの友情の証であるアクアサファイアが良い例だ。
ちなみにアクアサファイアはクラフトブックに入れなかった。
自分の手で持ち帰りたかったし、素材化して大多数の中の1つにしたくなかったんだ……。
そしてガチャ岩が出ない代わりに出てくるもの……それが鉄鉱石だった。
俺はこのシステムを逆手にとって鉄鉱石を掘っていたという訳だ。
「まぁ、という訳だとか言っても最近まで忘れてたんだけどな……うーん、何か思い出す記憶に制限が掛かっているような気がする……」
「にゃあん」
「ん? あぁ、そろそろお腹空いたな。ごはんにしよっか」
モチに催促された俺は立ち上がり、山から家へと戻る。
何だかとても充実しているような気持ちだった。
これから今日は何を作ろうとか、結局焚火で焼くくらいしかできないのにそんなことを考えながら歩く少しの距離が、とても愛おしかった。
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