第7話 鉄鉱石を掘る。

 日が暮れるまでにはまだ時間がある。

 ならばやるべきことは作業だ。

 ということで俺は早速山掘りを開始することにした。


「つっても道具らしい道具もない、お遊びみたいなものだけどな」


 誰に言う訳でもない予防線を張り、手の中の棒をギュッと握る。

 これはその辺で拾った枝よりも少し太い棒だ。

 明確に【棒】というアイテムはあるが、それは木を加工して作る武器とも道具とも言えるアイテムだ。

 これはそれには満たない、ただの棒である。


「まぁでもほじくることくらいはできるしね。十分十分」


 雨上がりというコンディションでなければできないやり方だった。

 エタデでは天気や季節のシステムはあったが、こうして雨で緩んだ壁面の耐久地が下がる、なんてシステムまでは搭載していなかった。

 つまり現実ならではのやり方である。


 早速俺は棒で山の壁面をほじり始めた。

 雨の所為で柔らかくなった表面は掘りやすく、赤茶けた土に混じって小石がゴロゴロと出てくる。

 こういった小石も重要な素材である。土ですら素材だ。

 俺は開いたクラフトブックを足元に置いてその真上をどんどん掘っていく。

 こうすることで下へと落ちる土や小石はクラフトブックへと収納されていくから楽ちんです。


「効率よくいかなきゃな、こういうのは」


 同じ作業を続けるというのは精神的な苦痛が伴いやすい。

 俺は夢中になってやってしまう方だが、効率よくやるからこそ夢中になれるタイプだ。

 本音を言うならばこんな棒でやったところで効率は最悪だ。

 しかし最悪な状況だからこそ効率よくやらなければ何も前に進まないというものだ。


 と、棒の先にゴリッとした感触があった。

 もしやと思いその硬い何かを掘り出す為に周辺を棒で削っていく。

 すると土の中に子供の頭くらいのサイズの塊が見えてきた。

 表面は周りの土と似て少し赤い。


「よし、よし、よし……!」


 自然と口角が上がるのを止められなかった。

 だってエタデでもよく見た鉄鉱石と同じ模様だったから。

 額を流れる汗も気にせず、棒で周辺を削っていくと鉄鉱石の大半が露出した。

 少し隙間を作って土と鉄鉱石の間に棒を差し込み、てこの原理でぐにぐにと動かしてみると……


「やった! 取れた!」


 ゴロンと外れた鉄鉱石がそのまま足元のクラフトブックへと消えていった。

 早速表記を見ると【中鉄鉱石1】と表記されていた。


「中くらいのサイズかぁ。これを製錬したら鉄10個くらいにはなりそうだな!」


 製錬品は元になった物のサイズによって個数が異なる。

 例えば小鉄鉱石なら鉄1から、多くて4個程度になる。

 中サイズなら10個から15個くらいだ。

 大サイズとなると30個スタートと大規模な数字になってくる。

 この辺の振れ幅の差もエタデの魅力だったりする。懐かしいなぁ。


「この鉄があれば道具が作れそうだな……よし、次は炉だ」


 集まった小石の数は多いが、炉に必要なのは小石ではなくて石だ。

 この辺りは鉄鉱石とはまた違ったサイズの分類の仕方だが、これは製錬に使う素材じゃないからだ。

 まぁ、石を熱してもしょうがないしな。

 さて、石と言えば川だ。川にならきっと石が転がってるはずだ。


 ということで山の傍に流れている川を見に来たのだが……。


「ちょっと怖いな……」


 川は雨の影響で濁っていて流れも速かった。

 水量もしっかり増水されていて、少し岸も削れているような気がする。

 しかしこれが雨後の状態ではあるが、毎回これという訳でもなさそうだ。

 だったらもっともっと川幅は広くなるはずだ。

 でもここは植物も川の際に生えて育っているし、今回がちょっとイレギュラーだったのだろう。


「となると逆に干ばつが心配だな……」


 唯一の水源、ではないが近場の水源が失われるのは厳しい。

 素早さの泉もそうだが、なくなるようなことはないだろう。あれは湧き水だったから。

 ただ、川は別だ。貯まることのない流れのままにある水量が減れば干からびるだろう。


「石は別の場所から探すとするかぁ」


 仕方なく俺は場所を変えて石探しをすることにした。

 山を中心に森へ入り、足元に転がってる大き目の石を拾い集める。

 30個程集めたところで日はすっかり落ちた。

 同時並行で集めていた枝と葉を消費して再び焚火を作る。

 そして今度は簡易版ではなく、ちゃんとしたテントを作成することにした。

 しばらくここに根を下ろすのだから、ちゃんとしたテントの方が過ごしやすいと思ったからだ。

 とはいえ、木組みのしょぼいテントには変わりないが……。


「場所は……ここにしよう」


 大きな氾濫の可能性があれば絶対にやってはいけないが、小規模だと判断できたので川べりにテントを立てることにした。

 安全が確保されているのでというのもあるが、何よりも景観が良かった。

 だってこんな森の奥にある拓けた場所に流れる川なんて、秘密の場所っぽくていいじゃないのさ。

 ゆくゆくは家も建てたいくらいの気持ちである。


「さて~……ここだな」


 黄色いホログラムは作成可能の印。

 ということでちゃちゃっとテントを作成した。

 形としてはオーソドックスな三角形のテントだ。

 5本の長い枝の先端を紐で縛り、広げて立てるだけ。

 枝と枝の間は小枝を糸で縛り、そこへいくつも重ね、組み合わせた葉っぱが掛けられて雨風を凌いでくれている。


「暗くてもこれならすぐに建てられるし、クラフトブック様様だな……はぁ、今日はもう休むか」


 夕飯も何もないが、疲労だけですぐに眠れそうだった。

 明日は炉を作って、鉄の製錬。

 それが出来たら、色々レシピ解放をしていきたいな。


 しかし今日は色んなことが起きて大変だったな……。

 あの白猫竜、無事に家に帰れただろうか。


 そんなことを考えているうちに、俺はすっかり意識を放り出して眠ってしまった。

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