第46話 植林の為の木探し。

 パン作りや台所整理をしているうちに日が暮れてしまった。

 結局何をすることもできずに、その日は寝ることにしました。


 そして翌日。


「今日は全員で一緒に行動します」

「おー。珍しい」

「俺はクラフト、イリスとモチは狩りみたいな感じになってたもんね」


 座っていたモチが立ち上がって俺の胸に撫でろと言わんばかりに頭突きをしてくる。

 最近ちょっと別行動が多かったもんな……よしよし。

 嬉しそうに喉を鳴らすモチを撫でながら今日のやることを発表することにした。


「苗木を探そうかなって」

「苗木ねー。育ちかけの木みたいな感じ?」

「そう。なければ細い枝を切らせてもらうか、最悪は種」


 できれば苗木の方がいい。

 もう育ってるという実績があるし。

 場所を移すことで何か枯れる要因があるかもしれないが、移さないことには話が進まない。

 もしそれで駄目なら新鮮な枝を分けてもらって、そこから育てる。

 それでも駄目なら種からだ。


「その為に今日は皆で探して、良いのがあったら報告するように!」

「了解!」

「……」

「モチ、返事は?」

「ふん」


 急にツンツンするモチ。

 けど俺は知っている。

 これは一緒に行動できて嬉しい気持ちの裏返しだと。


「もう、モチちゃん? ちゃんと嬉しい時は嬉しいって言わないと!」

「そうだぞモチ~! よちよちよちよちよいててててて!!」



             □   □   □   □



 モチに噛まれた肩を撫でながら森を散策する。

 向かうのはこれまで俺が行かなかった方向だ。

 今日は台所から山の側面を抜けて森の深部方面へと足を延ばした。

 深部と言ってもここから何キロも先の話だ。

 それほどまでにこの森は広大で、だからこそ恐れられていた。


「今俺たちがいるのはスケアグロウ大森林の外層と中層の間くらいだよ。もっと進むと中層、そして深層があるんだ」

「へぇ~……ここって強力なモンスターが多いから誰も近寄らなくて謎が多いんだよね……」

「ま、まぁ俺も伝え聞いた話なんだけれどね」


 危ない危ない、エタデの知識で語ると語りすぎる。

 危ないのはエタデ頼り過ぎるという部分もだ。

 現実とゲームでは違いもあるだろうし、ドヤるのも大概にしとかないと痛い目に遭いそうだ。

 しかしこの森の広さだけはゲームも現実も同じだな……広いから手が付けられず、手が付けらえないから強力なモンスターも出現する。

 この森を自分の領地だなんて口が裂けても言えないな。

 親父殿の胆力の強さには感心するよ、ホント。


「だからまぁ、あんまり奥まで行くと危ないよって話」

「中層が限界かもねぇ」


 中層より奥、深層はエルフ族の暮らす土地だ。

 つまり中層の中程からはエルフの警戒エリアとなる。

 中層は中層でも、その浅い部分が限界だろうな。

 なのでそこまで行かないように気を付けながら、俺たちは浅瀬でちゃぷちゃぷしているのが正解である。


「あ、こういうのはどう?」

「ん? あぁ、いいね」


 イリスが指差したのは足元に落ちている木だ。

 台風か何かで倒れたのか、半ばから折れた痛々しい姿の木だったが、倒れた方の木からいくつかの新芽が生えていた。

 確かこういうのを倒木更新っていうんだっけ。

 自然とは循環なんだなと、この光景を見ると感じてしまう。

 元気に伸びているところに申し訳ないが、ちょっと更新の場所を変えてもらうとしよう。

 しゃがんだ俺は取り出したナイフで根元の部分をピッと切る。

 それを開いたクラフトブックに入れると【新芽1】と表記が追加された。


「よし……よしっ」


 成功しそうな気がしてきた。

 クラフトブックに新芽が登録されたということは、使い道があるということだ。

 新芽の使い方か……なんだろうな。

 植林かな!


「全部取っちゃうと意味ないからなー。もっと探すぞ!」

「了解!」


 何にしてもそうだが取り尽すというのは良くないことだ。

 開拓の為の整地だとしても、多少の再生の余地は残しておくのが文化的人間としての義務である。

 モチが全部切っちゃった分に関しては、そこはまた別の使い道があるので許してほしい。

 素材も無駄にするつもりはない。

 むしろもっと欲しいくらいだ。

 そしてこれはその為の植林なのだ。


 その後もモチとイリスと探索と続け、苗木にピッタリの若い木も見つけた。

 こちらはクラフトブックに入れると木材扱いになりそうだったので仕舞うことはやめて、モチに引きずってもらうことにした。

 その為に簡単なそりを作った。

 こんな道なき道を荷車で来るのは無謀だったからな……そりを作って正解だった。

 ガッタンガッタンと揺れる音を聞きながら散策を続け、計2本の苗木と10本の新芽をゲットすることができた。


 その帰り道、そろそろなくなりかけていた石鹸代わりになる木の実、【アワの実】を取りに群生しているところへやってきた。


「そうだ、このアワの木の枝を少し分けてもらえば便利になるんじゃない?」

「んー……とりあえず植林が成功してからにしよう。無駄にしちゃったら可哀想だし」

「きっと成功するよ~。成功したら台所とお風呂の横に植えようね。あと洗濯機のところにも」

「その場で使えると便利だな」


 プチプチと必要な分だけちぎりながらの雑談だったが、割と有意義な話になった。

 確かにお風呂や台所の横にあれば、使う時はすぐにちぎれる。

 洗濯の時も酷い汚れがある時はちょっと多めにちぎってすり潰して汚れてる部分に擦り付けてから入れてもいい。

 まぁ、大体は灰を混ぜれば落ちると思うけど。

 イリスの発想は柔軟だなぁ……見習わないと。


 こうして必要な素材を手に入れた俺たちは拠点へと戻ってきた。

 今回は荒らされているということもない。

 以前よりもモチの匂いが強く残り、縄張りとして完成されてきている証拠だろう。

 そもそもモチの竜としてのオーラで近寄らないのだから無敵だ。

 狩りの際はそのオーラを抑えてるから、たまにモンスターの気配がするとイリスから聞くこともある。

 拠点を離れる時は気を付けないとな……。


 ともかく、まだ日は高い。

 早速植林を始めるとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る