第42話 台所ができました。
今回はクラフトイベントにイリスさんもお招きしています。
「前々回は気付いたら終わってたからね。しっかり立ち会わないと」
「前回見れてるんだからいいでしょ」
「いーや、全部目に焼き付けるよ!」
そんなこと言ったら1ヶ月後、俺は一切のクラフトができなくなるんだが……妙に心に引っ掛かりそうな言葉はやめてください……。
しばらくして再びやってきた時に何を言われるのか考えるともう心が痛くなってくるよ、俺は。
……さて、場所はどこにしようかと周囲を見渡す。
現在のクラフト品の位置としては北側に山があり、その傍……東側を流れる川に橋がかかり、下流に水車付き洗濯機が設置されている。
その橋と洗濯機の間お風呂場を設置してあり、そこから南に向かって進むと炉と作業台が並んで設置され、俺たちの家とトイレがある。
山から見て南側、家から見て西側、つまり南西の位置には革細工用作業台が設置された東屋が置かれている。
中心地は空白だ。
来た当初からここは綺麗に何もなかった。
もしかしたらモチが暮らしていたのかも……?
しかしそうだな……そんな中心に台所を置くというのも妙な気がする。
「うーん……どこに台所を置くべきか……」
「家の近くでいいんじゃない?」
「あんまり家の傍に固めるというのも芸がないなって。できれば広く使いたいんだよ」
「じゃあいっそ一番遠くに置くとか」
「ふむ……?」
となると山の方になるが……それはそれでいいな。
後々あの山がなくなることを考えると拓けた場所になるから違和感はない、か?
「じゃあこの切り株テーブルをあの中心に置くのはどうだろう?」
「あー、いいね! 雨の日はちょっと大変だけどその辺はどうにかなりそうだし」
「余裕があったら家の川側にも置いておくのもいいかもな。屋根付きにして」
食事する場所と台所が二つあったっていい。
正直言うと今の素材ストック量があればその程度のクラフトは可能である。
ただ、新規で作る場合にはその分は集めたいよねという気持ちで最近は素材集めをしているだけなのだ。
ストックしている分は何かあった時の為の予備だからね……補修にも使うし。
「まぁ一旦山側に置いてみるか。川も近いし」
「川の水も飲めるようにしないとね」
「それな……いちいち煮沸はしんどいよ」
鍋で煮沸して飲むのが日常ではあるが、できればぬるま湯じゃなくて冷えた水が飲みたい。
といっても氷もないし無理だが……せめて常温で飲めるようにしたい。
まぁそれも台所を使えば多少は楽になるだろう。
しんどいけど川で水汲んで煮沸して冷まして樽にでも入れればいい。
いつか濾過機とか作ってみたいな。
「じゃあこの辺に作るか」
「いいね!」
場所は山から少し離れた場所で川の近く。
橋よりは山の方が近いかな……くらいの位置だ。
クラフトの為に一旦仕舞って移動させた作業台を設置して【台所】のレシピを開く。
目線で場所を誘導し、黄色いホログラムが表示されていることを確認して作成を念じる。
すると一瞬で横長な屋根付きの台所が出現した。
クラフトブックのレシピに載っていた図柄通りのデザインの台所だ。
「わぁ~! 本当に凄いスキルだね!」
「ふふん、まぁな」
「いいねー!」
早速調理台の前に立つイリス。
その隣に並んでクラフトブックを開いてみるが、やはり調理レシピは表示されなかった。
完全に形だけの台所だな……だが普通に使えるし、使いやすそうだ。
「調理台の下が空洞なのがいいね。爪先が入るから立ちやすいよ」
「壁になってると自然と前傾姿勢になって背中と腰が痛いよな」
切り株テーブルが正にそれだ。
いつか綺麗に成型して足つけるかくり抜くかして使いやすくしたいぜ。
一度作業台の前に戻った俺は台所と同じページ内に記載されている【石窯】と【グリル台】のレシピを選択して作成する。
「イリス、後ろ」
「ん? わぁ、いつの間に!?」
調理台の後ろに石窯とグリル台が並んで作成された。
石窯は半円と長方形を合わせた、なんというかこう……お城の扉? の上半分みたいな形の入口が同じく半円型っぽい両開きの扉で蓋がされている。
入口の下には四角い穴が縦に二つ。
下段は恐らく通気口で、上段は薪を投入する場所だろう。
薪入れにも通気口にも簡単な蓋がついている。
そのまま上へ見上げていくと入口の上にレンガで組まれた煙突が伸びていた。
石窯と言っても土台や煙突含め、殆どがレンガ製だ。
レンガも石みたいなもんだ。硬いし。知らんけど。
そして驚いたことにレンガの煙突は屋根を綺麗に貫通していた。
まるでそういう風に作られているかのように。
これも水車の護岸工事と同じ地形効果のようなものだろうか?
赤いホログラムが出なかったから一瞬、妙だとは思ったが……。
これがまかり通るならある程度の設置はできてしまうことになる。
クラフトするジャンルのシナジーとでも思っておくことにしよう……。
「開けてみていい?」
「もちろん」
「ふへへ~」
引っ掛かっている閂を外し、両開きの鉄扉を開くイリス。
その後ろから覗く俺。
そしてどこかへ行っていたが戻ってきたモチ。
頭の上に乗っかる頭の重さに耐えているとイリス越しに中が見えた。
中は意外にも広い。
なので床面積も広く、扱いやすそうだった。
その床のに見慣れないものがあった。
L字に曲がった金属製の物体。
イリスに断ってから手を伸ばし、それを掴んでみるとスポッと抜けた。
取れたそれは両方に穴があいた、短い煙突のような器具だ。
そして空いた穴は丸く、よく見ると穴の横に丸いCDのような穴の開いた円盤も置かれていた。
穴は下の薪のある部分へと繋がっている。
「あー……なんかそういえば聞いたことあるな。パンを焼く窯は火で窯の中の温度を上げて、その熱で焼くとか」
「そのでっかいので火の方向を決めてゴォォって燃やすんだよ」
「そういう感じか。んで、焼く時はこの円盤で蓋するのか」
下で燃やした薪の炎がここへ伸び、内部の温度を上げるんだな。
そしてその円盤で蓋をして温度を保つ、と。
よく出来てるなぁ……。
「あの蓋どうやって取るの?」
「取るのも入れるのも大変だな……そうだ、火掻き棒のレシピがあったはずだから作っておくよ」
「火掻き棒なら先っぽ曲がってるし引っ掛けて使えそうだね。薪も入れるから本来の使い方もできるし」
よく見れば取り外した物にも引っ掛ける場所があった。
火掻き棒さえあれば両方とも扱うことができるだろう。
改めて石窯を眺める。
全体的に見ると3段構造となっていて、その所為か少し威圧感があるくらいにはでかかった。
その隣にあるグリル台が小さく見えてしまうくらいにはでかい。
そして石窯が立派な所為でグリル台がちゃっちく見えてしまう……鉄を細く伸ばして作ったグリルがあって立派なのに……。
横長だから炭の移動で焼き加減もできそうで、夢が広がるのに……どうしてもこの石窯が立派過ぎる。
「さっそく何か焼いてみる?」
「そうだな……俺は今日という日の為に、あるものを買っていたんだ」
「?」
首を傾げるイリスとモチ。
モチの頭を撫でてから家へと戻り、俺はベッドの傍に置いていた麻袋を担ぐ。
こいつが濡れないようにどれだけ気を遣って運んだことか……。
色んなものを重ねてどうにかこうにか濡れずに運んだこれは、あの石窯で絶対に使うと決めていたものだ。
肩に担いで台所まで戻った俺は、慎重にそれを調理台の上に置いた。
グリル台のことを誉めていても、どうしてもやっぱり俺は石窯に希望を持ってしまっていた。
「これは何?」
「これはな……小麦粉だ!」
「小麦粉……パン!」
「そうだ、パンだ!」
小麦粉と石窯があれば何が作れるか。
パンである。
ここには水と塩もあるから作れてしまうのだ。
だがちゃんとした酵母がない。
なので失敗するかもしれません。
「失敗も楽しむということで、パン作り始めるぞ!」
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