第102話 水を見て思う。

 アルゴ草原から戻ってくるとモチが子猫竜達と一緒に待っていた。

 どうやら子守りをしてくれていたようで、ゴマから降りてお礼を伝えておいた。


「ありがとうな、モチ」

「……」


 お礼を受け取るとふい、とそのままどこかへ行ってしまう。

 照れ隠しが下手で可愛いやつだ。

 モチが見ていた間は大人しくしていたウニ達だが、父親が身に着けている鞍を見る目はキラキラしていた。

 すぐに俺の足にしがみ付いて『自分達も欲しい!』とにゃーにゃー鳴き始める。


「大丈夫だよ、ちゃんと作るから!」


 その言葉で矛を収めてくれたようで、足から離れてくれた。

 勿論、ウニ達に鞍を乗っける訳にはいかない。

 これから作るのはハーネスである。

 エタデにはペット機能というシステムがあった。

 ポピュラーなものでは犬や猫といった定番の生き物から、爬虫類や鳥類、果てはモンスターまで……実に様々な種類のペットが存在した。

 そういったペットを戦闘用に育てたいという希望から生まれたのがテイマー職だったような気がする。

 まぁとにかくそういったペットを連れて歩くにはハーネスというクラフトアイテムがユーザーには親しまれていた。

 ちゃんと連れて歩く、いわゆるロールプレイ。

 それを楽しむ為のアイテムだった。


「猫用でいいか……アダルトサイズでちょうどいいな」


 普通の大人の家猫よりちょっと大きいのサイズの子猫竜達には大人用のハーネスが合いそうだ。

 紐も付けられるし、例えば興奮して走り出しても迷子にならなくなる。

 できるだけ行動に制限は掛けたくないが、危険が多いのも事実だ。

 誘拐だってあるかもしれないしな……目の届く範囲にいてもらいたいというのは、どうしてもある。

 ゴマの鞍を外してやり、作業台の隅に置く。

 それから革細工作業台の前に立ってクラフトブックを開き、手早くハーネスを3つ作成した。

 群がる子猫竜達を1人ずつ作業台の上に立たせて装着していく。

 まだリードは付けていないが、下ろした途端に元気よく走っていく。

 やっぱりリードは必要だな……!


「よし……これで満足だろう」


 全員分の装着が終わると皆で放牧場の方へと走って行った。

 草地で転げまわりながらはしゃぐ姿はめちゃくちゃ可愛い。

 しばらくそれをゴマと眺めていた。



             □   □   □   □



 翌日。

 朝一で植林場に肥料を撒き、その足で台所横の水車を川へ下ろした。

 今日は朝からお風呂に入りたい気分だった。

 水路を流れていく水を眺めながらお風呂場へ行く。


「この水もさっさと楽に飲めるようにしたいなぁ」


 以前もそんなことを思ったが、濾過機を作ったとしても安全に飲むにはどちらにしても煮沸は必要だ。

 結局煮沸するなら濾過機は必要ないかと言われると、否だ。

 どんなに森の住人になろうとも心は文化的人間。

 水は綺麗な方が良いに決まっているのだ。

 ならば砂利や石を使った濾過機を作るべきなのだが、これがまた優先順位が低い。

 何故ならばここの川の水は非常に綺麗で、土っぽい味もしないから煮沸だけで成り立っているからだ。

 勿論、見た目が綺麗だからといって不純物がないかと言われたらそれも、否だ。

 濾過はした方がいいに決まっている。

 だがやるべきことが多すぎて、濾過の実験まで手が回らないのが実情だ。

 生きていく上で必要な水。

 その優先順位が低いという矛盾。

 まったくふざけた話ではあるが、これが森に住むということなのかもしれない。


 色々と考えながらも焚火を風呂釜の下に設置し、貯めた水を温めていく。

 ある程度貯まったら水車を上げて、水が温まる間に今度は洗濯機の方の水車を下ろした。

 高い位置から落とされた水が立てる音に皆がぞろぞろと起き始める。

 これ幸いと、皆が寝ていたベッドのシーツを引き剥がしてどんどん洗濯機へと投げ込んでいく。

 今日は晴れているし、一斉洗濯日ということにしよう。

 グルグルと回転している洗濯物を後にしてお風呂場へと戻る。


「うん、ちょうどいいな」


 一度家に戻って着替えを手にお風呂場へ戻る。

 軽く体を流して綺麗にしてから入る朝風呂は格別だった。

 体を拭いて着替えて出てくるとイリスが着替えを持って待っていた。


「次入る~」

「どうぞー」


 入れ違いにイリスが入っていくのを見送ってからモチ達を探す。

 が、すぐに見つけた。

 モチ、ゴマ、ウニ、キクラゲ、クロミツの5人は並んで洗濯機の中の洗濯物を見つめていた。


「そんなにジッと見てたら目が回るぞ」

「にゃあん」

「ほどほどにな」


 朝食でも用意しようかなと思い、ふと川を見て思い出した。

 あの灰爬族の里の光景をだ。

 あの湖では魚の養殖をしていた。

 食糧事情を改善した俺としてはあれは非常に素敵なやり方だった。

 しかし残念ながらここには湖がない。

 かといって作る訳にもいかないし。


「……いや、池を作って水を引いて、川の支流みたいにすればできる、か?」


 例えば今ある放牧場予定地。

 その川岸に穴を掘り、石をぎっちり敷き詰めて固定する。

 それから洗濯機の上流から池に水を引いて、洗濯機の下流に流れるように水路を作る。

 勿論、上流からの水路の出口と下流への入口には網の柵をする。

 これなら水が川から池へ、池から川へと循環するだろう。

 本当は水を一切通さず、腐りもしないビニールシートみたいなのがあればいいのだがそんなものはこの世界には存在しない。


「革って腐るのかな……腐るか。やっぱ石かぁ……?」


 これが上手くいけば魚を養殖することができるだろう。

 なんか、なんとか上手くできないものか……。

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