第20話 アンスバッハへ。
「モチ、準備できたか?」
「にゃあん」
「よし」
革細工用作業台でクラフトした【使役獣用鞍】は問題なくモチの体にフィットしていた。
長毛種だからちょっと毛がくちゃってなってるけど、問題ないはずだ。
何故ならばこの鞍は取り付けるモンスターに合わせて形を変えるからだ。
「行こうか」
エタデはシミュレーションMMOとして大人気の作品だった。
そのゲーム内容は俺のような
ファイターは様々なものがあったが、その中に『モンスターテイマー』というファイターの中でも特殊な位置付けの戦闘職があった。
この職はモンスターをテイミング……つまり手懐けることができる。
特殊なのはこのモンスターテイマーという職が【クラフター】と【ファイター】をミックスしたような職だったからだ。
モンスターが好むアイテムをクラフトし、そのアイテムでモンスターをテイムして戦闘をする……というのがモンスターテイマーのスタイルだ。
しかもモンスターの餌もクラフトで作れたはずだ。
そしてテイムしたモンスターはオークションにも出せるということで、一部の界隈ではとても人気だった。
落札したモンスターは戦闘では使えなかったが、今の俺のように乗せてもらうという楽しみ方はできた。
だから速いモンスターばかりがテイムされるという良くないスパイラルに陥ったこともあったが……まぁこれ以上は語ってもしょうがない。
何はともあれ、今の俺はエタデでも地上最速に最も近い速度をもつ猫竜種に乗っていた。
「モチ、速い! 怖い!」
「……」
だから木々が生える森の中を飛ぶように走るというのが非常に怖かった。
しかし枝に当たるというようなことは一切ない。
適切にルートを選んで走っているのだから流石の動体視力と判断力である。
それが逆に怖かった。
「……」
「うわぁ! っとと!」
そんなモチがピタリと止まる。
思わず前に転げそうになるのを全身の筋肉を使って耐え、視線を上げるとそこは【素早さの泉】の前だった。
「……モチ、お前まさか」
「……」
「いやもう十分速いから、大丈夫だから! 水ならほら、持ってきたから……あぁ! 飲むな!」
「ごきゅ……ごきゅ……ごきゅ……」
ただでさえ速い猫竜が素早さアップの水を飲んだら……さて、どうなるか。
「おああああああ!! 死ぬ!! 死ぬ!!!」
「にゃあん♪」
答えは日暮れまでに町に到着する、でした。
□ □ □ □
隣国の港からスケアグロウ大森林を迂回してアンスバッハと繋いだ大街道『ヘレンミラー街道』は、公爵肝煎りの事業だった。
クライゼル領と隣国から多くの人員を導入し、精密で緻密で綿密な作業の基、この大街道を完成させた。
お蔭様でヘレンミラーを行き交う人の数は多い。
街道には宿場町も併設され、栄に栄えているからより多くの人が集まった。
結果、アンスバッハに入るには沢山の人が並ぶ行列に並び、順番を待つしかなくなってしまった。
その並び順は絶対で、膨大な作業に追われて滞ることも少なくなく、入りきれない人が町の防壁下でテントを立てることもよくある光景だ。
何ならそういった人を狙って商売人まで出張ってくる始末である。
なので、こうして日が登っている間に門番と会話ができたのは奇跡に近い。
これもモチの素早さのお蔭かと思うと、あの地獄ドライブも悪くなかったと言える。
「そんなでかくて危ないモンスターが町に入れる訳ないだろう!」
「いやほんと、小さい頃から一緒に育ったので危害は加えないんです!」
「馬鹿も休み休み言え!」
現実にはモンスターテイマーという職業は自称なのかもしれない。
ない訳ではないのだが、その多くは国が管理して軍事利用等に使っているから資格が必要なのだろう。
だからこんな身分証もない野良のテイマーの言うことなんて信用できるはずがなかった。
そもそもテイマーですらない。
ただの不審者である。
だからこの門番はとても優秀だった。
「でもほらあのこれ見て、めっちゃ良い子なんです! 可愛いんです!」
いつものようにほっぺをぐにぐにして揉んであげるが、モチは嫌そうな顔をしていた。
それを見た門番は予想とは全然違う表情をしていた。
「うわぁ……恐ろしい……」
「なんでや! 可愛いやろがい!」
「貴様! やる気か!」
「いや違うんです本当に」
「おーい、何事だー?」
俺と門番が揉めていると門の向こうから年配の方が小走りでやってきた。
何人か衛兵を引き連れているのを見て思わず息を呑んでしまった。
本当にまずい、モチの可愛さを説いていただけなのに捕まってしまう!
「隊長! こいつが!」
「まぁまぁ落ち着きなさいや」
「すみません、あの、隊長さん。揉め事にしたい訳じゃなくてですね……」
「あんたは……うん、ちょっと中で話聞こうかね」
「あ、はい……」
終わった。
俺は連行されてスピード裁判で有罪で処刑されてモチは殺処分だ。
町なんか来なきゃ良かった……。
そう思っていたのだが、門の内側に張り付くように建てられていた事務所に通され、俺は隊長とお茶を飲んでいた。
なんでや。
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