第19話 クラフトレベル25の男。

 人間とは欲に溺れた生き物だ。

 いや、欲に溺れた生き物が人間なのかもしれない。

 そしてその欲の対象となったものは、とてもそれがよく分かるらしい。

 当たれ、当たれ、当たれ、当たれ!

 願望は念となり、対象を襲う。

 そして対象となったものは特別なセンサーで、その念を躱すのである。


「うわぁ、またハズレだ!」

「……」


 見事に物欲をセンサーで躱され続けて15連。

 砕けたガチャ岩の欠片は足元で小さな山を作っていた。

 1つ割るたびに頭を抱える俺を冷めた目で見るモチ。

 その視線を背中に受け、俺は再び金槌を手に取った。


「当たれば勝ち、当たれば勝ち、当たれば勝ち」

「……にゃあん」

「いーや、当たるね。次で当たる! そりゃあ!」


 掛け声と共に振り下ろされた金槌はガチャ岩を叩く。

 砕けたガチャ岩は足元の山に追加される……ことなく、ひび割れた隙間がキラリと光った。


「やったー! 当たりだ! 当たりだぞ、モチ!」

「にゃあん」


 死ぬほど喜んでる俺に、流石に興味が湧いたのか、立ち上がって割れたガチャ岩の中を覗き込むモチ。

 モチの視線の先にある岩の中身は赤い、魔宝石。

 それもただの赤ではない。

 熾火のような鮮やかな赤でありながら、そこへ紫を混ぜたような妖艶な色。


「間違いない、普通の魔宝石よりレアな上位魔宝石の【マゼンタルビー】だ」


 マゼンタルビーと呼ばれる魔宝石だ。

 これは通常のファイアールビーに紫の差し色が入っているのが特徴だ。

 属性は火。

 通常発見される魔宝石の上位互換は2属性が混ざったものが多いが、この魔宝石は火単一だ。

 普通のファイアールビーの何倍もの火の力を秘めた凄い石なのだ。


「自然の奇跡だな……」


 これ1つでいくらになるのだろう。

 エタデではそれなりの額で取引されていたが……。


 その後もずっとガチャ岩を割り続けた。

 結果、先程例に出したファイアールビーや、モチが拾ってきてくれたのと同じアクアサファイア。

 それにご新規のサンダーオニキスや、エアロジェイドなど、各属性に特化した魔宝石が何個か出てきてくれた。

 加えて上位魔宝石がマゼンタルビーに加えて2種類も出てきてくれた。


「こっちは水単体属性の上位魔宝石である【フラッドサファイア】と、風と火の2属性が混じった【クリムゾンジェイド】だ。運良いなぁ!」


 どちらも高値で取引されていたものだ。

 こっちでも高いと良いのだが、生憎相場が全然わからない。

 足元見られないようにだけはしないとな……。

 その為にも見た目は大事にしないといけない。

 やはりモチは連れて行った方が良いかもしれない。

 こういうの何て言うんだっけ……何かの何かを借りる何かのやつ。

 思い出せないが、まぁいい。

 今はやるべきことが沢山あるし、それをやれるのなら記憶は関係ないね。


「売り物はできた。あとはひたすら革細工だ!」

「にゃあん」

「ちゃんとモチのも作るよ。ていうか、モチのを作る為にクラフトしてるんだからな?」


 首を傾げるモチの頭を優しく撫でる。

 そう、俺が身に着ける革装備は安いもんだ。

 だがモチに着ける大事な装備の要求クラフトレベルが少し高いのだ。

 エタデでもこれを作る為に皆、必死になって革クラフトしたし。

 それが面倒で金で解決しようとする奴も多くいたけど、その需要に応えるように金額も跳ね上がっていった。

 それだけ、これから作るものは大事なものなのである。




             □   □   □   □



 モチが口の周りを真っ赤にしながら鹿を持ってきた。


「あぁ、ありがとう。モツは食べたのか?」

「にゃあん」

「よし。じゃあさっさと皮剝ぐか」


 相変わらず綺麗に食べてるなぁ。

 モチが持ってくる狩った動物は綺麗に下処理が施された動物ばかりだ。

 狩った獲物の内臓を食うというのはモンスター……いや、動物としての本能だろう。

 お蔭様で俺の手間が省けていいのだが、本当にナイフでも使ったのかってくらいに綺麗だった。

 多分あの力だろう。

 以前、木々を広範囲にわたって横薙ぎに切り裂いたあの力。

 空間を飛び越えた斬撃という説明をつけるのなら、あれはエタデでも見た力だ。

 すなわち、次元属性という火風土水雷の5大属性……基礎属性とは別の枠組みのレア属性の力だ。

 次元属性はその名の通り次元に干渉する力だ。

 時間と空間を支配する力。

 それをモチは持っているのだろう。


「レアな猫竜族で、レアな白毛種で、レアな次元属性持ち……エタデのオークションに出したら何百億になるか分からんな……」

「……」

「ゲームの話、ゲームの話な!」


 殺意が籠った視線を向けられて慌てて否定する俺だった。

 冷や汗を垂らしながら鹿を持ち上げ、家の傍にある木に吊るして皮を剥ぐ作業をした。

 慎重に肉と表皮の隙間に刃を入れ、ゆっくりと剥いていく。

 手慣れたものだ。と自画自賛する程上手ではないが、それなりに上手く剥げたと思う。穴もないし。


「本当はここから皮についた脂取ったりとか薬液に着けたり毛を抜いたり抜かなかったりだとか色々あるけれど、こいつに入れてしまえばすぐ出来上がるんだから簡単だよなぁ」


 その分、代償はあるが。

 クラフトブックには【鹿革5】と表示される。

 大きい鹿だったからかな。

 何にしてもありがたい。

 この革はもちろん、革細工に使うものだ。

 お蔭様で俺が身に着ける革ベルト等は諸々完成した。

 剣をぶら下げる為のものとか、そういうやつ。

 あとは水筒も作ってみた。

 木と革で作った、なんか胃袋みたいな形をしたもので、意外と使いやすかった。

 それとちょっとしたブレスレットとか。売れそうな気がして。


 そしていよいよ、クラフトレベルが25に達した。

 短いようで長い道のりだった……。

 しかしこれで俺はモチの為のクラフト、【使役獣用鞍】の作成が解放された。

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