第36話 洗濯機をクラフトする。
翌朝。
俺はついに大規模クラフトの準備を開始した。
「まずは板が全部で……100!? 多いな……」
作業台の前でクラフトブックを開いて1人で文句を言う俺。
いや、ちゃんと見て計算はしていたんだが、やっぱり多いなって……。
文句を言っててもしょうがない。
さっさと丸太を材料に板を生成する。
1秒に1枚のペースで板が完成していくのを眺めながら欠伸。
今日は晴れだ。
つまり、洗濯日和である。
「……よし。次は木材が50……これも多いな」
板とは別に木材が50個。
板の方が多いのは水車や水路、洗濯槽で板を使うからだろう。
にしても50はちょっと多いな……これも水車や水路が原因だろうか。
こちらは2秒に1つのペースで作成されていく。
数は違えど同じ秒数だけ待って、次の材料を見る。
「……ロープも多いな」
仕方ないと思うしかない。
木組みなのだから固定に釘やロープを使うのは当たり前だ。
その後も色々と細かいクラフトをして、ようやく全素材の加工が完了した。
そしてまずは水車のクラフトを開始する。
「30分か。長いなぁ~」
洗濯日和とは思ったが、完成する頃には日が傾いてそうな予感がしてきた。
俺は作業台の上に行儀悪く座りながら時間が経つのを待った。
今日は素材集め無しのお休みと伝えたが、二人ともここにはいない。
モチが狩りをすると言って、イリスがそれについていったのだ。
風が吹いて葉っぱが擦れる音だけが聞こえる穏やかな空間が広がっていた。
「暇だな……」
やることがないとここまで暇になるのか……。
結局、本当に何もやれることがないままに30分が経過した。
クラフトブックの中には水車が登録され、それに追従してまだまだ作れもしない多くのクラフトレシピが解放されていく。
レシピ解放されても、洗濯機のように単体のクラフト品が必要なものがあまりにも多かった。
その中に以前、水車で何をするかと考えた時に思い浮かんだ製粉の為のクラフトもあった。
が、これは石臼が必要だった。
石臼のレシピは当然、ない。
多分だが小石ばっかり集めてても解放できないと思う。
あれって割と大きな石から削り出して作ってるしな……。
それに石を削るような加工をする道具もない。
買ってきた方が早いんじゃないかって話だ。
となるとやはり購入品をクラフトブックに入れる実験は必ずやらなければならないな。
それができれば大幅な短縮解放ができるだろう。
さて、話が逸れてしまったが、水車は完成した。
これにより洗濯機のクラフトが可能になった。
「よっしゃ……場所はどうしようかな」
洗濯機が置けるだけの広い場所を見つけなければいけない。
深さもそれなりにないと駄目だ。
でないと水車が川底を擦ってしまう。
こういう時に便利なのがクラフトできるかどうかが一瞬で分かるホログラムだ。
そう思って俺は作業台の前でクラフトを選択して川の方を見たのだが……目を疑ってしまった。
「……えっ、どこでも作れる?」
黄色いホログラムしか出てこなかった。
さすがに川以外は赤いホログラムになるが、川であればどこでもできるようになっていた。
しかしそんなはずはない。
今俺が見ている部分はまだ橋がなかったころに岩伝いに対岸に渡っていた場所だ。
大きな岩があるからクラフトできるはずがないのだが……。
「ちょ、ちょっと移動させよう……!」
作業台がここにると川が見えないし、作業台から離れると作業台クラフトにならなくなる。
俺は慌てて洗濯機のクラフトをキャンセルし、作業台をクラフトブックへ収納した。
川沿いに移動し、作業台を取り出して再び洗濯機を選択すると、その原因が判明した。
「そういうことか……地形まで変えちまうんだな」
本来、クラフト品の設置にはその場に移動不可オブジェクトがある場合は設置ができず、赤いホログラムで表示される。
しかしそれ以外にも赤ホロ表示されることがある。
それが『設置不可地形』だ。
先程の川以外に洗濯機が置けない現象。
あれが設置不可地形だ。
水車を使うものを陸に置けないのは当然である。
逆に、川の中にトイレを設置することもできない。
これも設置不可地形である。
しかし今回の洗濯機が川ならどこでも設置できてしまうというのは、本来、エタデではそうだったからだ。
エタデでは川にクラフト品を設置する場合、周辺の地形込みで設置がされていた。
ゲームだからこんな現実みたいに川のポリゴンは複雑ではなかったし、ユーザーのストレスを減らす為にもそういう仕組みだったのだろう。
だから現実ではそれが良いようになのか悪いようになのか、捉え方はそれぞれだが、影響を及ぼしていたのだ。
実際に自分の目で見て理解できた。
あの板と木材の量は洗濯機本体だけではなく、地形変化込みの量だったのだ。
今、俺の足元には護岸の為の板柵の頭が見えていた。
この岸の部分と、恐らく川底の部分は削り取られて消えるだろう。
それが他にどんな影響を及ぼすのか、今の俺には分からない。
この何でもないようなことが、後に大きな出来事に繋がる……かもしれないし、繋がらないかもしれない。
「うーん……でも悩んでたら、何もできないよな……」
そんなことを言ってしまえば、俺はもうすでに多くの木を切り倒している。
これらが全部、悪意を以て行っていることではないのは確かだ。
自分の住みやすいように場所を切り開いているのは、森だって川だって一緒だった。
「難しいな、こういうの」
でも考えていかねばならないことだった。
今はまだ答えが出せないけれど……完璧に完全に徹底的に圧倒的に正しい答えなんて出せる気がしないが、まずは生きる為に生きようと思った。
生きる為に生きたら、後は死ぬ為に生きよう。
この拠点に今以上に人が住み着く可能性だってある。
その人達が今後も生きられる為に、俺は死んでいくのだ。
「はは、まるで貴族だな」
それはあんまり笑いたくない冗談だった。
□ □ □ □
洗濯機は無事に完成した。
スムーズに回る水車は水を汲み上げ、水路を伝って板とロープで作られた洗濯槽へと落ちていく。
敢えて中心を避けた位置に水を落とすことで洗濯槽の中には水流が生まれ、渦を描いて板と板の隙間から流れていった。
足元は木材と板で作った護岸がしっかりと建てられ、崩れる様子はない。
洗濯槽の外へ飛び出した水流がぶつかってもビクともしていなかった。
そして驚いたことにこの水車、持ち上げることができた。
俺の目の前にある取っ手のついた円盤を回すことでロープと歯車が動き、水面へと水車が移動する。
つまり、必要ない時は洗濯機に水流を作らなくていいのだ。
これは騒音問題も解決するし、耐久値の減少も防げる素晴らしい仕組みだった。
これ考えたゲームデザイナーの人、天才だと思う。
「あー! いつの間にか完成してる!」
「おぉ、おかえり~」
「作る時は言ってくれないと!」
別にそういうルールはないのだが、物珍しさからだろう。
戻ってきたモチとイリスはウサギやらシカやらイノシシやらを荷車に載せていた。
内臓処理は……済ませてるようだ。
あれはモチのご褒美兼栄養だからな。
モチの口元を見るに、しっかり補給は済ませているようだった。
「にしても汚れてるなぁ」
「このイノシシがね、突っ込んできたから避けたら泥の上に寝転んじゃった」
「よーし、着替えてこい。洗濯してやる!」
「やったー!」
大はしゃぎで家に走っていったイリスは物凄い速さで着替えて汚れた服を持ってきた。
そして俺に渡そうとして、引っ込めた。
「年頃の男の子に服を渡すのは怖いなぁ」
「泥だらけの服なんか貰ってもしょうがないだろ……」
「泥だらけじゃなかったら良いってこと?」
「うるせー! さっさと入れろ!」
「あー!」
誤魔化すようにひったくった服を洗濯槽の中に放り込んだ。
水流に掻き混ぜられるイリスの服。
その中に下着が見え隠れしているのを、俺は必死に見ない振りをするのだった。
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