第72話 旅疲れの風邪。
結局1週間くらい倒れていた。
久しぶりに出た家の外は快晴だ。
「なんか、気持ち良いな……」
「にゃあん」
「ありがとな、モチ」
この一週間、モチには助けられっぱなしだった。
まず、テュランスから戻った俺達はアルターゴブリン拠点跡地でケイ達と別れた。
それから家に戻り、疲労からすぐに寝落ちして、起きたら熱が出ていた。
多分、慣れない長旅と黒猫竜のことで考え過ぎたからだと勝手に思っている。
モチはすぐにケイ達に助けを求め、解熱剤を持ったケットがモチに乗って駆け付けてくれた。
完全に風邪だと感じていた俺はケットにうつしたくなかったので感謝しつつも無理を言って早々に帰ってもらい、あとは自力で治した。
ご飯の為に起き上がって熱がぶり返したりして長引いてしまい、結局1週間も掛かってしまった。
その間、モチはモチで木の実やら何やらを採ってきてくれたりと俺の為に沢山動いてくれた。
「とりあえず、風呂入ろ……」
まずは寝込んでいた間、入れなかった風呂に入ることにした。
水車を下ろし、水を引き込んでいる間に浴槽の下に焚火を拵えていく。
2つの焚火で引き入れた水を沸かし、燃え尽きそうになったら薪をくべた。
水の量が丁度良い量になりそうになったらそこで水車を上げて、しばらく待つ。
しだいに水路が突っ込まれている窓から見える湯気がはっきりしてきた。
「モチ、今日は一緒に入ろうか」
「……」
「ほら、おいで」
嫌そうな顔をするモチを風呂場へ引き込んで無理矢理洗った。
竜だから綺麗なのは分かってるし、毛についた葉っぱなんかも川にざぶんで落ちるとは思うが、こうして洗ってあげられるほどに回復したのだと実感もしたかった。
アワの実を潰して手拭いで揉み込んでやってできた泡でモチを泡塗れにし、お湯で洗い流していく。
それが終わるとモチはそのまま湯の中へと入っていった。
俺も汗や皮脂で汚れた体や髪を綺麗に洗う。
一擦りするごとにすっきりしていくのが気持ち良い。
最後に泡を全部流して、俺も湯船に入り込む。
「だぁぁ……病み上がりの風呂最高や……」
「にゃあん」
「何だかんだ気持ち良いだろー?」
この一週間で何となく空気も乾燥してきた感じがする。
もしかしたら寒気が迫ってきているのかもしれない。
となると雪とか降ったりするのだろうか……エタデのスケアグロウ大森林には冬マップなんてなかったからなぁ。
雪も降る……んだろうなぁ……せめて膝下くらいまでならなんとかやりようもあるのだが、実は豪雪地帯とかだと終わる。
「この辺りはそんなに降らないって聞いたけど……うーん、どうだろうな」
どちらにしても完全に冬になる前に黒猫竜問題は終わらせたい。
その為には、準備を進めていかなければいけない。
「この分ならすぐに冷えてきそうだし、冬用の服と……あとは保存の利く食料も買い集めたいな。……くそ、そうなると金が底を尽きそうだ……」
まだ大丈夫と思いながら使っていたお金もキャラナの露店での大出費で一気に不安になってきた。
ある程度の物は揃ってきたことだし、殆どのことをこの森の中でできるようになったとはいえ、多少の蓄えはあって損はない。
コルタナに山を崩してもらった時にいくつかのガチャ岩や鉄鉱石が回収できればいいのだが……いや、皮算用は失敗の元だな。
スパイス類が順当に育てばそれを卸せるし、それが収入源になりそうだな……。
肥料の力があれば年がら年中育ちそうだし……うん。
「モチ、明日はお土産配りに行くよ」
「……」
「それから情報収集して冬用の服買って……モチもいる?」
「にゃあん」
「だよな。竜だし」
風呂を出てから久しぶりに料理をした。
と言ってもストックしてた魚を焼いただけだ。
しかし81匹もあったシルバーフィッシュも今回の旅でかなり消費してしまったな……。
毎回下処理から始めるのは大変だったが、お蔭様でかなりスピードも上がって上達した気がする。
「塩焼きが一番旨いな……病み上がりだからもっと旨く感じる」
串に刺してグリル台で焼くだけでもこれだけ旨いのだから元が良いのか、俺の焼き加減が良いのか。
簡単だし食べやすいし量で食えるのでウーゴがパクパク食ってたんだよな……俺もケイも食ってたが。
「釣りの再開も考えないとな……餌が大変なんだよなぁ。ミミズとか捕まえて花壇みたいなとこにぶち込んで養殖できないかな」
餌は食料の端材とかで十分育つだろう。
ちょっと掘って埋めてやれば喜んで食べるはずだ。
「うん……できそうだな。今度作ろう」
家の裏の空き地もそのうち畑にするからミミズの採取もできるだろう。
当初は小麦とかで一面使う予定だったが、予想外に多く香草の種を入手できたから区分けして使うことになりそうだ。
となるとメイン食材となる小麦をどこに植えるかだが……これは畑の拡張が必要になりそうだ。
これからもやることは沢山だ。
冬になってできることもあれば、できないこともでてくるだろう。
それも含めて生きてるって感じがして本当に楽しい。
その日は病み上がりということもあってゆったりと過ごした。
水車の傍に腰を下ろして川の中を泳ぐ魚を見たり、革細工作業台から拠点を眺めたり。
落ち葉を含んで吹き抜ける風が冬の到来を示唆していた。
そうして何となく心身ともに落ち着いた頃、寝たきりになっていたベッドのシーツを剥がして洗濯機へ放り込んだ。
しばらくかき回し、取り出して干して……それだけの作業だけど、心地良い疲労が妙に嬉しい。
「しっかしイリスがいないと静かだなぁ……」
ちょっと寂しい気持ちと、最初の頃はこうだったなぁなんて懐かしい2つの気持ちが胸の内でぐるぐると渦巻いていた。
夜になり、早めにベッドへ入る。
外が冷えても外界の影響の殆どを遮断するクラフト品の家の中は快適だ。
すぐに眠りに落ちて翌朝、荷物をまとめ、干していたシーツを取り込んで準備を終えた俺達はアンスバッハへと出発した。
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