第33話 これからのこと。
一緒に遊んでたモチとイリスと合流し、ひとしきり遊んでから今後の方針を伝えた。
「お風呂! いいね!」
「だろ? それに謎の洗濯機もこれから必要になると思うんだ」
「クラインくんが今後も暮らしていく上では必要だね~」
イリスの言葉に頷く。
やはり生活にお風呂と洗濯機は必要だ。
これに電子レンジがあれば言うことはないが、そんなものはない。
「それで色々と材料が必要になってくるんだけど、ストックするには俺がその場に行く必要があるから、1箇所にまとめておいてもらえると助かるんだ」
「本に入れなきゃいけないんだっけ」
「そうそう。まずは丸太を集める必要があるから、モチと一緒に頼むよ」
「了解だよ~。モチちゃん、頑張ろうね」
「……」
イリスをチラ、と見たモチがすぐに踵を返して森の方へと歩いて行った。
その後を追うイリス。
行く方向は川の対岸だ。
そっち方面はまだ開発していないが、後々する予定だった。
何故なら、対岸方面にずーっと行くとケイ達の集落があるからだ。
これからも交流も増えてくることだし、であれば多少は行き来しやすいようにしておきたい。
モチはそれをとっくに理解していたのだろう。
ケイ達もモチの家族だしな。
「さて、俺は釘用の鉄と細かい木々だな」
早速山の麓へと行き、新たな洞窟を掘り進める為にクラフトブックからピッケルを取り出し、肩に担ぐ。
見上げた山は大きい。
と言っても、ビル何十階分……なんて標高もない。
ただ、素手で登るには相当な技術が必要だろうという高さだ。
なんかこう、記憶の片隅にアミューズメント施設とかで登るでこぼこした壁が見える。
多分、それくらいの高さだ。
「今日からここが6号洞窟だ。よーし!」
気合いを入れてピッケルを握り、俺は山との対話を始めた。
□ □ □ □
この間とは打って変わって小さい鉄鉱石しか出なかった。
が、数は多かったのでまだ良かったと言える。
ちなみにガチャ岩は出なかった。
汗と土で汚れた顔を川で洗い流し、家の方へ戻るとちょうどモチとイリスも帰ってきたところだった。
「お疲れ。どうだった?」
「いやー、モチちゃんの力は凄いね! 彼女1人で森なくなっちゃうんじゃないかな?」
「それは俺もケイ達も動物達もモンスター達も困るからやめてくれ……」
森に住む者は多い。
善なる者も悪なる者も、等しく森の恩恵を受けている。
善悪問わず、干渉してくる者にはそれ相応の対応を示すが、それがなければただの住人。
その住人が住む為の森を失くしてしまうことは絶対に避けるべきだった。
「冗談だよ、冗談。あと、丸太は対岸の少し行ったところにモチちゃんがまとめてくれたよ。入れる時は一緒にね」
「あぁ、助かるよ。ありがとう、モチ」
「ふん」
鼻を鳴らしてどこかへ行ってしまうモチ。
今日はもう働きませんの意思表示だろう。
俺も今日は疲れた……さっさと食事にしたい。
そうだ、食事だ。
今日からは味付きの食事ができるんだ!
でもまだ調理用の施設がない。
今日のところはまだ焚火料理だなぁ。
調理器具はあるからまだマシだ。
時間が空いたら調理用の
「さてと」
俺はまな板代わりの板をクラフトブックから取り出し、テーブルの上に置いた。
このテーブルはモチが引っこ抜いてくれた切り株だ。
まだテーブルとしては日が短いし、乾燥しきってもいない。
しかしモチがもつ次元の力で切り裂いた断面は恐ろしく滑らかで、テーブルとしては文句のつけようもなく、そして綺麗な水平だった。
けどまだ木の皮が捲れてないから、それがちょっとチクチクして痛い。
切り株自体も末広がりな形をしているから前傾姿勢になるので太腿と腰と背中が痛い。
……文句ばかりだな。
でもこれがあるとないとでは大違いなので助かってはいた。
時間が経てばもっと使いやすくできるはずだ。
それまでは少々やり辛いが、大事に使わせてもらうとしよう。
俺はまな板の上にウサギ肉を置いた。
下処理をした後の、綺麗な形をしたウサギだ。
といっても頭や手足の先は落とされてるからウサギ感はないが。
新鮮な薄ピンクの瑞々しい綺麗な肉だ。
その肉に包丁を這わす。
この包丁はアンスバッハで購入したものだ。
とても素晴らしい切れ味で、あっさりと腿の付け根から綺麗に肉を切り離した。
「もう片方も外して、と……」
反対側の腿肉も取り外し、横に並べる。
同じ要領で前脚も外し、残った胴体は食べやすいサイズに切った。
これはモチのオヤツだ。
俺とイリスは前脚と後ろ脚を片方ずつで足りるだろう。
……足りるよな?
「味は……シンプルに塩だけにしようか」
新鮮とは言え、切れば多少の血はつくもので、汚れた手を川で手を洗う。
と、洗ってからそういえば水も貯めていかないとまずいなと考えた。
こうして洗うのも危険がないわけではない。
普段は都度煮沸して使っていたが、これからは変わってくる。
そういえば余分に保存用の壺を買っていたから、あれを水瓶代わりに使うか……。
「とりあえず今日のところはこれで……焼くし大丈夫だろ!」
万が一お腹を壊した場合は……その時に考えるとしよう。
さて、手を綺麗にした俺は家の中に置いてある小さな壺を手に取った。
蓋つきの壺の中身は空っぽで、手が完全に乾いているのを確認してから腰より少し低い位置まである長い壺の蓋を開ける。
こちらの中身は口いっぱいに入っていた。
もちろん、中身は塩だ。
そっと小さい方の壺を下ろし、中に塩を詰めていく。
長い方の壺と同じように、だが満杯という程は入れずに九分目くらいにまで詰めた。
両方の壺に蓋をして、家を出る。
「あぁ、モチ!」
「……」
見るとモチがまな板の上に並べていたウサギ肉を食べてしまっていた。
「もう……!」
「にゃあん」
「可愛く鳴いたって駄目だぞ! まったく……お前にはちゃんとシカ肉を出すつもりだったのに」
媚びでこの場を切り抜けようとするが、俺は騙されない。
いくら白猫竜とはいえ、こういう時はちゃんと躾をするのが大事である。
「にゃあん」
「置いてあるのが悪い? ほーう、言うようになったな。じゃあモチは今日はもう夕飯いらないね、もう食べたんだから!」
「にゃ、にゃあん……」
その対応がよっぽど厳しかったのか、モチは慌てて両手を揃えて、その手に額を付けるように頭を下げた。
そして小さな声で『ごめんなさい……』と謝った。
俺はその頭に手を伸ばし、そっと撫でた。
「ちゃんと謝れて偉いぞ。こういう時に謝れるのが一番偉いんだから」
「にゃあん」
「うんうん。大丈夫、ちゃんとモチの夕飯も用意するから。もうちょっと遊んでおいで」
「にゃあん」
ちょっと膨れたお腹を減らす為、モチは森の奥へと駆けていった。
肉はいくらでもあるし、問題ない。
というか、モチが捕ってきてくれた肉だし。
とはいえこういうのはとても大事だ。
俺も何か悪いことをしたら素直に謝らないとな……。
気付かないだけで何かしていたかもしれないということを改めて考えながら、俺は再びウサギ肉を解体するのだった。
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