(054) Area 18 Deliberately 倉庫
--倉庫-- #カイ
暗い。ここ、どこだ?
錆びた鉄のような匂いがする。工場? いや、資材置き場か何かだろうか?
目を開くと、高い天井にぶら下がる電球の放つオレンジ色の光が揺れて見えた。背中が冷たい。着ていたコートは奪われたようだ。僕はコンクリートの床の上に横たわっている。
リクのアパートにいたはずなのに、どうしてこんなところにいるんだろう?
そうだ、レインを探してキッチンに入ったら、突然目の前が真っ暗になって……。その後、どうなったんだっけ?
誰かにここに運ばれてきたのは間違いなさそうだけど、ここがどこなのか、まったく見当がつかない。頭がクラクラする。もしかして、睡眠薬でも嗅がされたのだろうか?
突然知らない場所で目覚めた僕は、視界がぼやけて、自分の置かれた状況が正確には掴めずにいた。
カチャ。
少し離れた場所で、鍵の開く音がする。
ぼんやりとした僕の視界の中に、背の高い黒い服を着た男の姿が入ってきた。
「やっとお目覚めかい?」
男が振り返り、覗き込むようにカイに近寄ってきた。だが、まだ気を失った時に嗅がされた薬が切れていないせいか、焦点が上手く合わず、男の表情までは読めない。僕は状況が飲み込めないまま、男に問いかけた。
「あなたは、誰なんですか?」
ここはどこで、この男は何者なんだろう?
「言わなくてもわかると思ったんだがな?」
男の声は低く、物怖じしない芯の強さのようなものを感じた。
「一体どういうことですか?」
僕は自分でも信じられないほど落ち着いた声で、男に問いかけた。
まるで、自分の中にいる過去の『本当の自分』が目を覚ましたかのようだ。
「今回が初めてじゃないだろう?」
「初めてじゃない?」
僕は過去にも連れ去られているのか? 男は僕のことを知っているようだし、どうも無作為に連れ去ってきたのではないようだ。人違いで連れ去られたのではない限り、男は記憶を失う前の僕を知っている!
「まさか忘れたって言うんじゃねぇだろうな」
男は何もかも気に入らないといった様子で、鋭い刃物を突き刺すように言葉を放つ。
「恨みたきゃ、生まれた境遇やあんたのお偉い家族を恨むんだな」
「家族……」
僕には男の話の内容も、言いたいことが何なのかも、まったくわからない。
男の素性に心当たりはないが、今の僕の状態を理解していない男を責めてもどうにもならないし、過去の僕を知っているかもしれない人間を、これ以上怒らせたくはなかった。
それでも、男は僕の態度が気に入らない様子で、舌打ちをすると、何かを投げてきた。
「それより、これでも飲んで大人しくしてるんだな」
「これ、何ですか?」
「見た通り、ただの水だよ。大切な人質に死なれちゃ困るんでね」
確かに、渡されたのは何の変哲もない未開封のスプリングウォーターと書かれたペットボトルだ。
「拘束されていないからって、逃げるような真似をすればどうなるかわかってるな?」
男は威圧するような物言いで僕を睨みつけている。
「あの、要求は何ですか」
「しらを切りたきゃ切ればいいさ」
男は僕の問いに苛立ちを抑え切れない様子で、吐き捨てるようにそう言うと、倉庫の奥にあるドアの向こうに消えていった。
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