(066) Area 15 Everybody hurts 暗い箱の中
--暗い箱の中-- #カイ
僕はDA2にいて、今朝出会ったばかりの神作博士の研究所の奥にいる。
研究所と言っても、事務所とキッチン、リビングが二、三十畳ほどの開けた空間に詰め込まれていて、何とも統一感がなく、至る所に本や雑誌、機械の部品が転がっていて、まともな研究所というより、子どもの秘密基地というか、ただの遊び部屋にしか見えない。
リクは何の計画もなしに僕をDA2《ここ》に連れて来たようだ。僕の体内のマイクロチップに書き込まれた情報では自分が
けれど、自分としては何も自分のことがわからない状況で、DA2にいることが安全だとは思えない。その上、あの火事の日からもう二ヶ月以上経つのに、オヤジさんのことも何も分らないままなんて……。
「アン、アン!」
聞き覚えのある鳴き声で、現実に引き戻された僕は、あたりを見回した。
店の奥からリクの飼い犬であるウェルシュ・コーギー・カーディガンのレインが、太い胴体を左右に揺すりながら、楽しそうに歩いてくる。今朝見たときにも太い胴体だとは思ったけれど、レインはかなり丸々とした体格をしている。食べるのが相当好きなのだろう。
「レイン、今までどこに行ってたの? それとも僕が気が付かなかっただけで、店の中にずっといたの?」
レインは僕の顔を見上げて、首を傾げている。
「その子の口元見てみなさいよ」
リクが呆れ顔でレインを見ているが、レインはそんなリクのことなどまったく気にしていないようで、何かに満足した、幸せそうな表情で僕を見ている。そして、その口元にはミルクのようなものがついている。僕はレインの頭を撫でた。
「近所中回って、いろんな人から食べ物もらってきたのよ。そうじゃなきゃ、私があげてるご飯だけで、あんなに太る訳ないもの! 毎日食事の量を管理しているこっちの身にもなって欲しいは……」
リクは少々機嫌が悪い。確かにレインの健康を考えると、もう少しスリムな方がいいだろう。
「へぇ。レインは人気者なんだね」
レインはまだお腹が空いているのか、僕から離れると、鼻をひくひくさせながら店内をちょとこちょこと歩き回っている。そんなレインの姿を追っていた僕は、神作博士の姿が見えないことに気がついた。
「そう言えば、博士はどこに行ったんですか?」
僕の問いにリクは両肩をあげて、わからないという仕草をした。リクにとって博士の店は勝手知ったる場所なのだろう。くつろいだ様子でカウンターの横にある小さなキッチンに向かい、珈琲を入れ始めた。ただ、気にかかることがあるのか、表情が少し曇っているように見える。
僕はリクに聞きたいことがまだ山ほどあったが、疲れがどっと出てきてしまい、椅子に座ったままウトウトしていた。
"行くぞ、カイ。きっと明日からは何もかも上手くゆくさ"
誰の声だろう? どこかで聞いたことがある……。
"俺は明日なんていらないんだよ、おじさん"
どうして僕は、何もかも諦めたように宙を見ているんだろう?
暗い箱の中で動けずにいる。
"さよなら、おじさん"
そう、僕は明日なんていらなかったんだ……ずっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます