第13章 門崎カイと協力者たち
(028) Area 27 Things that I wanted リクのメモ
--リクのメモ--#カイ
僕は今、桜元町の商店街に戻ってきている。
今から一時間ほど前に、僕は工場の部屋から抜け出すと、工場とバラックの間にあるスーパーに、ダッシュで向かっていた。僕はバラックに住んでいた時に、そのスーパーで毎日のように惣菜を買っていた。
僕はトイレに顔を洗いに行った時、リクからこっそり渡されていたメモを読んだ。
メモの内容は、リクが受け取ったメッセージを、手書きで紙に書き写したものだった。メモを開ける時、僕は自分の心臓がバクバクして、鼓動が聞こえるような気がした。
折り畳んだメモの外側には、さっき見たリクのメッセージが書かれている。
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ミエから連絡が来た
博士を信用しないで
できるだけ早く
人目のつかない場所で読んで
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博士について書いてあるのだろうか? メモを開ける手が震える。
メモの内側には、ミエと北田さんからのメッセージが書かれていた。
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カイは私のことは覚えていないかもしれないけど
私は弟のあなたをずっと探していた
MCPの記憶制御を解除する薬は これからあなたの手にも届くはず
薬を飲んで何を思い出しても 無理だけはしないで
博士はMCUを守っている 博士に気を許さないで
北田さんは何年も前からずっとあなたのことをよく知っている
今日だけでいいから私を、お姉ちゃんを信じて
北田さんに会いに行って
ミエ
午後五時に、君が工場の仕事帰りに寄っていた
スーパーの駐車場に来てほしい
目印として車のリアウィンドウに
君と僕が一緒に写った写真を貼っておく
MCUを破壊しに行こう このことは決して他言しないでくれ
北田
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『薬を飲んで何を思い出しても無理だけはしないで』
……薬が存在するなんて聞いていない。リクは僕の記憶を読み取って、僕はMCPじゃないと言っていたのに……。僕はやっぱりMCPなのか? どうしよう。こんな時には一体何を、誰を、信じるべきなんだろう。
僕はメモを読んだ時点では、まだ船引さんから薬についての説明を受ける前だったので、頭が混乱した状態で、みんなが待つ部屋に戻った。
北田さんについては、昨日の夜にリクから聞いていたので、ミエの同僚で、人質となった僕を救出するために協力してくれた人だということは知っていた。だけど、ミエと北田さんからのメッセージだけでは、五時にスーパーに行くべきかどうか判断できなかった。
ミエと北田さんの計画に、僕がどの時点から含まれていたのかわからない。二人が本当のことを言っているのかもわからない。僕は誰を信じたらいいのかわからず、気がおかしくなりそうだった。
だけど、僕が船引さんに、『本当にMCUは破壊できないんですか?』と聞いた時、『できたらいいんだが、今は手がない』と返してきた。
今日の夕方にMCPの解放が実現すれば、MCUへのセキュリティーが今まで以上に厳しくなることは目に見えていた。だから、できることなら、方法があるなら、今日中にMCUを破壊すべきだと思った。
僕がいなくてもMCPの解放計画が中止になることはないだろし、あの時点で僕にMCUが破壊できると言ってきたのは、ミエと北田さんだけった。だから僕は彼らの計画に賭けてみることにした。
約束の時間は少し過ぎてしまうが、まだ間に合うだろうか?
◇ ◇ ◇
待ち合わせの駐車場に着いた頃には、おそらく五時十五分を過ぎていただろう。指定された時間にはずいぶん遅れてしまった。もう、北田さんはいないかもしれない。
スーパーの駐車場には、数台の車が停まっていたが、レアウィンドウに写真が貼ってある車は一台もなかった。僕から北田さんに連絡する方法はなく、スーパーの駐車場で途方に暮れた。八方塞がりだと思った。
ここでただ待っていてもどうしようもないので、トキさんの家に向かおうと歩き出したその時、スーパー横にある人通りの少ない道からクラクションの音が聞こえた。
急いで駆け寄ると、道の傍に止まっている黒のワンボックスカーのリアウィンドウには約束通り写真が貼ってあった。その写真には、ばあばの家の前で並ん立って何か話をしている様子の、二人の男性が写っていた——僕ともう一人は見たことのない男性だった。そして、車の中から、その男性が出てきた。
「カイくん、来てくれてありがとう」
握手してきた北田さんの手には、力がこもっていて、僕に記憶を思い出さそうとでもしているように思えた。
「できるだけ目立ちたくないから、後部座席に乗ってくれるかい? 君を探している人が、顔検索で君を見つけ出してしまうかもしれないから」
「わかりました」
車に乗り込むと、北田さんはできるだけ細い道を選んで走り始めた。裏道の方が監視カメラの数も少ないのだろう。
「突然すまないね。実は君に会おうとしたのは私とミエの咄嗟の思いつきで、今日の計画には含まれていなかったんだ」
そっか、じゃあ、僕がここに来なくても、MCUを破壊することはできたのかもしれない。
「これからどこに行くんですか?」
「できれば、この地区内に君が隠れていることがばれない場所、特に、神作博士には想像すらできないような場所があれば、都合がいいんだけど」
「博士はそんなに危険な人なんですか?」
「どうだろうね。あの人のことを調べれば調べるほど、怪しくなってきてるってところかな。ミエは最近までは信用していたみたいだけど。ミエが僕に博士のことを相談してきたのが、半年ほど前だった。実際、昨日の夕方までは、僕と神作博士は知り合いではなかった。誰かが私や神作博士のことを調べたとしても、門崎ミエという共通の知り合いがいるというくらいしか、接点は無かったはずだ」
北田さんが話をしてているのを聞いていると、なんだか気が緩んでしまう。さっき一緒に写っている写真を見たせいだろうか?
「あの、隠れる場所についてですが、記憶を失う前の僕が博士と知り合いだったってことは、記憶を失う前の僕が思いつきそうな場所もダメってことですよね」
「そうだね」
「つまり、僕がオヤジさんと一緒に生活し始めてから、リクに会うまでに知った場所にしないといけないんですよね」
「できれば今誰も住んでいないところなんてあれば、打って付けなんだけど」
「誰も住んでいない場所ですか……」
「やっぱり難しいかな?」
オヤジさんと一緒に生活し始めてから、リクに会うまで、誰も住んでいないところ……。
「あっ。あります。神作博士が怪しむエリアですけどいいですか?」
「ほお」
「あの、場所を言う前に、一つだけ確認したいんですけど、MCUを破壊するのに、どうしてこの地区で隠る必要があるんですか?」
「MCUに侵入する前に、色々と準備が必要なんだよ。準備中に僕の居場所がMCS社(メモリーコントロールサービス社)の人間や政府のお偉いさんに見つかるとやばいんでね」
「そういうことですか。わかりました。隠れ場は……」
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