第10章 柏原と北田の思惑
(049) Area 20 Involved 配達
--配達--
急遽引き受けた封筒の配達のため、駒井のレストランから出発したリクは、事前にナビに登録しておいた封筒の宛先の情報を呼び出した。
『国立第四脳科学研究所
西棟』
ヘルメットから音声情報が流れる。
(そう言えば、前にもこの場所に配達に行ったことがあるけど、どんな人に配達したんだっけ? 気の強うそうな人だったけど、目を合わせてないからあんまり覚えてないな)
走り出して三十分ほど経った。平日の昼間なので道路は空いている。時刻は午後四時前。約束の五時までには余裕で合う。
それから間もなくして、予定通り四時過ぎに
リクが向かっている国立第四脳科学研究所の西棟は科学技術特区の中で最も市街地に近いエリアにある。元々は、工場や住宅が立ち並んでいたエリアで、政府が民間から買い取った土地に建てられた研究施設だ。
西棟の正門である西門に着くと、リクは門の脇にバイクを停めて、リュックから封筒を取り出した。その時突然雨が降り出し、大きな雨粒が封筒に落ちた。
「いけない、いけない」
封筒がこれ以上濡れないようにと、前かがみで封筒をかばいながら小走りで守衛の受付に向かい、軒先で雨を避けながら封筒の宛名を確認した。
宛名は水性ペンで書かれていたようで、名前の部分が雨粒でぬれて滲んでしまっている。
『国立第四脳科学研究所
西棟
第六研究室
門崎 三? 様』
(三かな? あと、もう一文字ある……。三郎とかかな? やっぱ違うか?)
封筒を覗き込んだ守衛の男性が、
「あぁ、門崎さん宛だね。すぐ呼びますので、お待ちください」
と言って、呼び出しの電話をかけた。
「西門守衛の町田ですが、門崎さん宛に封筒が配達されてきたので西門まで受け取りにきてください。——はい。そうです。お願いします」
電話を切ると、守衛はリクに向かって、軒先にあるベンチを指差しながら言った。
「突然雨が降って来ましたね。十分から十五分くらいで来るはずだから。良かったら、あのベンチに腰掛けてお待ちください」
守衛は受付の奥のデスクに腰掛けると、事務作業を始めた。
(そう言えば、以前ここに配達に来たときは、カラッカラに晴れた日だったな)
◇ ◇ ◇
しばらくすると、なんとも頼りなさそうな白衣をきた男性が息を切らせながらやってきた。寝不足なのか目の下にうっすらと隈がある。少し長めの髪を後ろで束ねているが、それでもボサボサ感は否めない。
「門崎宛の封筒を受け取りに来ました」
私はその男性の首から下げられたIDにKITADAと記載されているのを見て、一瞬眉を顰めた。
「
「はい。私は北田ですが……」
「本人に渡すように依頼されてるんですが、門崎さんは本日は不在でしょうか?」
「研究室にいるんだけど、今は出られなくてね。代理で僕が受け取りに来たんだけど、だめかな?」
(困ったな。依頼主に連絡するのは手間だ。配達の仕事をしていてこんなことを言うのもなんだけど、私は人との関わりはできるだけ避けたいし、無駄に喋りたくもない)
「依頼主から、本人に手渡しするように依頼を受けているんです。どうにかなりませんか?」
リクの問いに北田は眉をしかめ、苦い顔をした。
「そうなのか。でもさっきの様子じゃ、ここまで来てくれそうにないしな……」
(受取人の門崎と言う人は抜けられない会議にでも出ているのかな? それとも、よほど融通の効かない人なんだろうか、代理で郵便を受け取りに来た北田という男性はずいぶん困っている。
北田という人はかなり人当たりの良さそうな人だ。そんな人を困らせるなんて、門崎という人はどんな人なのだろう。とにかく、言っても無理な場合は、妥協した方が早く解決する)
「わかりました。ちょっと依頼主に確認してみます」
そう言って、リクが依頼主に電話をかけようとすると、北田が小声で提案してきた。
「いや、電話はちょっと待ってもらえる? もし時間さえあれば、僕と一緒に研究室まで来てもらえれば手渡しできますよ」
「入構許可が下りるんですか?」
(こんな国家極秘プロジェクトに関わりそうな国立の施設に、一般人がそう簡単に入れるのだろうか)
「大丈夫、大丈夫」
リクの疑問をよそに、北田さんは守衛内を覗き込んだ。
「町田さん。この子のために入構許可よろしく!」
さっきまで眠たそうだった北田さんが、妙にシャキッとして楽しそうだ。北田の言葉に無言で反応した守衛がニュキッと手を伸ばし、小型のカードリーダーを差し出してきた。北田さんはカードリーダーに自分のセキュリティーカードをかざすとカードリーダーに向かって言った。
「音声申請:コード38R 入構許可申請」
『音声申請:承認。入構を許可します』
カードリーダーから許可の音声が流れると同時に、門の脇にある勝手口のようなドアがスライドして開いた。
「ありがと、町田さん」
守衛に渡された別のカードを北田さんが受け取る。
「北ちゃん、いつも大変だね」
「いえ、いえ、女王蜂に支える働き蜂よりはマシですよ」
北田は町田に軽く手を振ると、リクの方に振り向いて微笑んだ。
「ついてきてください」
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