(022) Area 28 Save you 裏庭の丘
--裏庭の丘--#リク
私がトキさんの家に来て約二十分後には農場の東西南北の門が開き、多くのMCPが恐る恐る門から出ていく映像がネット上に公開された。そして、門が開いた直後に、私にも国立農場内の映像のリンク先が記載されたメールが届いた。
薬の配達に行く準備を終えた私は、出発前に端末の画面に映るおばあちゃんの映像を黙って見つめていた。
「君はリクさんだね。私はここの家の者でトキと言います。その方はあなたのご家族ですか?」
この人がトキさんか。想像していたよりも物腰が低く、柔和な印象の人だ。
「はい、祖母です。門が開いた後も、何をしたらいいかわからず戸惑っているようで……。ここに連れてこれたらいいのに」
「そこは、西門の近くにある食堂だね。迎えに行くといい」
「でも、私は薬の配達に行かないと……。それに、門の周辺はもう人だかりができはじめていて、今から向かっても入るにはひどく時間がかかりそうです」
「君が行きたいなら、特別な道を教えよう」
「特別な道?」
「あなたは、ここの裏庭に丘がある理由を想像できるかな? 丘は何でできている?」
「え? 丘……。土。あっ」
「わかったみたいだね。ついてきてください」
私はトキさんについて、キッチンを出た。トキさんは廊下の突き当たりにある物置を開くと、床を指さした。
「床板を外すと、トンネルがある。しばらく進むとわかれ道があるが、右に曲がると東門の近くにある貯水槽の裏の倉庫の中に出る。そこに出た後は、このマップを使うといい」
やっぱり、トンネルを掘った時に出た土でできた丘だったんだ……。
差し出されたのは手書きの国営農場の見取り図だった。何年もかけて少しづつ書き足されていったようで、農場の細部や監視官や外部業者の出入りの時間まで書き込まれていた。
「どうやってこんなに細かな情報を手に入れたんですか?」
「農場を抜け出したMCPはたくさんいるんだ。みんなが教えてくれたことだ」
「私が使ってもいいんですか?」
「農場は開放された。もう、これ以上必要のないマップだから君にあげるよ。おばあさんを迎えに行ってあげな」
「でも、薬を配達しに行かないと」
私が迷っていると、ミエが背中を押してくれた。
「リク、無理しなくていいよ。行ってきな! 十分なライダーが配達に回ってる。私がこのエリアを回って、リクのバイクを西門まで届けるから、心配しないで。あと、これも忘れずに持っていってね」
リクは薬のパックを紙袋から出して渡してくれた。
「ミエ、ありがとう」
「こっちこそ、ありがと」
私は押し入れの床板を開けると、国立農場に続くトンネルに入った。
おばあちゃん、すぐに助け出すからね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます