(002) Area 34 New beginnings 終わりとはじまり 今ここにいる訳
--終わりとはじまり 今ここにいる訳--#カイ
季節が春に移り変わった頃、僕らは隠れ家を出ていくことにした。
北田さんは、僕たちの生活が落ち着くまでは、もう少しだけ隠れ家に残って様子を見るから、何かあればいつでも戻ってくるといい、と言って送り出してくれた。
僕とミエは、リクとリクのおばあちゃん、そしてレインと一緒に、DA2の古いエリアにあるリクのおばあちゃんの家に引っ越してきた。
ここでの生活も思ったより順調で、気がつくと、あっという間に数週間が過ぎていた。
リクのおばあちゃんの家の前には、家が数件は立ちそうな長く広い前庭がある。
リクのおばあちゃんは『土をいじっていないと落ち着かない』と言っては、毎日その庭で野菜や花の世話をしている。
◇ ◇ ◇
初夏。
空が高いある晴れた日。
ミエがお気に入りのオレンジのバイクを押して、庭から道路まで出てきた。
「じゃあね、カイ」
「ミエ、ありがとう」
「ううん、私こそ、お礼を言わなきゃ。……カイが弟でよかった」
ミエはなんだか照れ臭そうだ。
「これからどこに行くの?」
「まず、ばあばの家に行って……。その後は何も決めてない」
「そっか。ばあばに、僕もまた行くって言っておいて」
「うん、わかった」
ミエはそう言うと、少し俯き加減になって言葉を続けた。
「カイ、今まで、ずっとごめんね」
「なんで?」
僕にはまだ、思い出せないことがたくさんある。
「私、小さい頃から、カイに八つ当たりして、何度も泣かせたりしてきたから」
「あぁ、そっか」
僕の反応に、リクが苦笑いする。
「俺こそ、姉さんに頼ってばっかりだった。あれじゃあ、当たりたくなるのも当然だよ」
「俺? 姉さん?」
「もしかして」
「まあ。少しはね、思い出せた……かな」
「よかった」
「よかったのかな?」
「よかったのよ」
ミエはなんだか楽しそうだ。僕もつられて笑ってしまう。
こんな意味のよくわからない会話、久しぶりだ。僕たちは、やっと姉と弟に戻れたのかもしれない。
「それより、そのバイクの軋む音いいよね」
「軋む音? 整備したばかりなのに?」
ミエは首を傾げると、ヘルメットを被り、ハンドルを握った。
「そういえば、リクに言っといて。いつかバイク便で研究所に配達に来てくれたとき、睨まれたみたいで怖かったって」
「え? 舵たちからの脅迫状を配達したときのこと?」
「ううん。もっと前よ」
「へぇ……。よくわかんないけど、伝えとく」
「じゃあね」
「またね」
ミエが乗ったオレンジのバイクが、軋むような音を立てながら走り去っていく。
「……そっか、俺と母さんにしか聞こえないのか」
◇ ◇ ◇
家の中に戻ると、レインがソファーの上で横になって、走っているように足を動かしながら寝ている。
夢の中で食べ物でも追いかけてるのかな?
おまえは気楽でいいよな。
俺は、僕は、このままでいいんだろうか?
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