Epilogue

(001)   Out of Area Epilogue 記憶のない僕らは

 --記憶のない僕らは-- #カイ


 リクと出会ってから約二年後、僕はDA2に食堂を開いた。


 僕はリクと一緒に店を開きたかったけれど「自由にしていたいの」というリクを説得することはできなかった。


 その店は、リクのおばあちゃんの家の長い前庭の道路に面した部分の土地に、みんなの手を借りて建てた。間取りは結局、永薪食堂と同じにはしなかったけど、設計したり内装を仕上げたりする時に、父さんが残してくれた間取りを見ながら、みんなでアイデアを出し合っていくのはすごく楽しい作業だった。


 店が完成すると、僕は店の二階部分に引っ越して一人暮らしを始めた。ただ一人暮らしとは言っても、リクやレインは庭を挟んだリクのおばあちゃんの家に今も住んでいるから、毎日のように話をしたり一緒に食事をしたりしている。


 隠れ家を出た後、リクはずっと配達の仕事を続けながら、トキさんや船引さんのさまざまなプロジェクトに手を貸している。さっきも言った通り、リクは僕と食堂を一緒に切り盛りする予定はないけれど、それでも、開店に必要な手続きや準備を、誰よりも親身に手伝ってくれた。そして、リクのおばあちゃんは、食堂で出す野菜を裏庭で育てると張り切ってくれている。


 レインは、晴れた日には必ず、暖かい日差しに包まれながら、おばあちゃんの家のテラスや僕の店のベンチで気持ち良さそうに昼寝をしている。

 そして、なんと数日前、どこからかココネが現れて、リクのおばあちゃんの家に住み着いたらしい。



 そう、

 あれから、時が流れて、

 ふとした瞬間に、過去の記憶が蘇る。

 それでも、

 僕には今も、思い出せないことがたくさんある。



 だけど、

 たとえ記憶が戻らなくても、

 とめどなく流れた涙や、

 叶えようとした夢への想いは、

 確かに今の僕を支えていて、

 名前を忘れてしまった人の笑顔さえも、

 きっと僕の中に刻まれている。



 確かなものなんて何もなくて、

 もちろん、約束された未来もない。



 それでも、

 どこまでも続いていく世界が目の前にあって、

 そこに道がなかったら、

 足跡をつけながら、どこまでも歩んでいきたい。

 

 君と、みんなと、一緒に生きていきたい。



 傷つき傷つけた過去があって、

 ここが望んだ世界と違っても、


 目の前をだた、進むだけなんだ。


 未来は、今の僕が作っているのだから。






 レインは店の前のベンチに座って、尻尾をゆったりと振っている。


 これからのことについて考えると、やっぱり少し不安だ。


「私たちは大丈夫!」


 不安な気持ちがバレたのだろうか、食堂のドアを開けて空を見上げていた僕の背中を、リクが両手でポンと前に押して、あの時に——僕たちが世界を変えた日にリクが言った、おまじないのような言葉をもう一度僕に言った。


「それにね」

「それに?」


「もし何かあったら、レインが私たちを守ってくれるわ」


 ——終わり——





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