第7話 「ただいま」と「おかえり」ただそれだけで

.................。


「なぁ、今日はどうしたんだ?一人にらめっこか?」


そう言って育人はこっちにかわいそうな眼を向けて来る。


「別に何でもないよ」

「いや、どう見てもなんかあっただろ、急ににやけた、と思ったら複雑そうな顔するし」

「何でもないって」


まぁ、実際にはあった。


遡ること、数時間前。


明音ちゃんに兄さんと言われて、妙な興奮を覚えてしまいなかなか眠ることができずに夜が更けていってしまった。


どうせもう寝ることもできないだろうと思って、朝ごはんを作って二人を待っていた。


もしかしたら……そう思って、二人に挨拶だけしたんだが…。


「……」

「.............」


.............うん、まぁ何もなくて。それはいつも通り挨拶が返ってくることはなかった。


期待していたから、ちょっとだけ悲しくなったという。朝の出来事だった。


「……まあいっか、あと、その手、大丈夫なのか?」


包帯が巻いてある手をみて、ツンツンしてこようとしてくる。


「大丈夫。……名誉の傷みたいなものだよ」

「は?なんだそれ」

「いいから、席戻れ、チャイムなるぞ」

「?分かった、またあとでな」


そしていつもどうり何事もなく、授業は進んでいき下校時間。


僕はまた二人に何かあるんじゃないかと思い、早めに出る。


すると、まだ二人は来ていなくて代わりにいたのが斎藤と西山だった。


あいつらと話す気はない。だって絶対に悪いのはこいつらだから。


昨日の復讐だ、とかなんとか言ったら、胸ポケットに入れておいたスマホで撮った録画映像を先生に見せるだけだ。


それとも、また懲りずに声をかけるつもりだろうか


「なぁ」

「.............なんだ」

「その。……」

「さっさと要件を言って欲しい」

「ごめん。ほんっとうにすみませんでした」

「すみませんでした」


全力で謝られる。きれいな九十度のお辞儀だ。分度器で測りたくなるくらいには。


それと、何事という周りからの視線で少し恥ずかしい。


「.............あー。うん。分かった。分かったから、頭を上げてくれ」


プライドが高いこいつらがこうまでしたんだ。余程反省しているんだと思う。まぁ、あれだけの事をしたんだから、退学か停学が怖いっていうのもあるかもしれないけど。それに…


「僕はもう大丈夫だから。それに謝るのは僕に対してじゃないと思うな」


あの件で一番被害を被ったのは明音ちゃん、凛さんの二人だ。


謝るのはそっちの方だ。


僕は目をスライドさせて、昇降口でこっちにちらっと眼を向けていた二人を見る。


「言わないと、後悔すると思う。っていうか言ってこい。それであの事は無しでいいよ」

「分かった」


そう言って二人は、明音ちゃんたちのほうに行って、さっきと同じように全力で謝る。


明音ちゃんたちは、不快そうに顔を歪めて「もう二度と近づかないで」とだけ言って帰って行った。


さて、僕も帰るか。



「ただいま、母さん」

「おかえり、結人君」


そう言ってにっこり笑う母さん。…はぁ、落ち着くぅ。リビングには、二人も一緒にいたけど、まぁただいまと返ってくるはずもない。


朝がそうだったんだから、あまり期待していない。


「ぉ…ぇ…」

「っ―—。」


今、確かに小さい声で明音ちゃんが「おかえり」って言ってくれたよな?聞き間違いか。


いや、おかしくない。今の僕なら、幻聴が聞こえても何らおかしくはない。


だからもう一回、言ってもらえたりしないかなー。


明音ちゃんの方を見るけど、下の方をみていて、今どんな顔をしているのか分からない。


「……おかえり」

「え、あ、そ、の。..........ただいま」


それに対して、凛さんははっきり、おかえりと言ってくれた。


という事は、やっぱり明音ちゃんも..........。


僕は、なんだかうれしくて


「ただいま!」


もう一度そういってしまった。




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