第39話 それぞれの気持ち。
「これ、半年ぶりくらいかな」
「そうだね」
そう言ってブランコをこぐ篠崎さん。
この公園で一年生のころは、育人と僕と、篠崎さんで一緒に遊んだことがたまにあった。それに、母さんにあの事を打ち明けられた場所でもある。
育人と篠崎さんが遊ぶ予定だったところに僕がいつもあとから育人に無理矢理入らさせられる形で。
僕としては、二人が一緒に遊ぶような関係だったなんて知らなくて、そんな二人の仲を邪魔するようで、なんだか二人に申し訳なかったような気がする。
ぎこぎこと少し錆びた鉄が揺れる音がする。
「じゃあ、新條君」
「はい」
「勝負しない?」
「勝負?」
いきなりだな。でも、まぁいっか。
「靴をより飛ばした方が勝ち。負けた方が悩み事を聞くってことでどう?」
「......ははっ。いいよ。志保」
「……もぅ」
そう言う事か。だから勝負なんて。.....じゃあ、僕が勝たなくちゃな。でも......多分。
「いっせーの、せーっで」
”普通に”飛ばした靴は篠崎さんの靴の数センチ先に落ちた。
「あぁー。負けちゃったな」
「そうだね」
若干棒読みの篠崎さんに苦笑してしまう。
篠崎さんは悩みがあるからこんな事をしたんだと思う。意外と素直じゃないからなぁ。
いつもは相談される側だから、多分相談の仕方が分からないんだと思う。でも、僕にだけはこうしてしてくれているってことは、初めて篠崎さんと仲良くなったきっかけのおかげかな。
「じゃあね......あの.....ね、新條君」
「なんですか?」
「私には、多分だけれど気になっている人がいるの」
「多分って、なんで曖昧なんですか?」
「私、恋なんてしたことがなかったからよく分からなくて」
なるほど。僕もまだ恋なんてしたことがないから実際になってみないと分からないし、初恋ならなおさら確信が持てないのかもしれない。
これが、恋心なんだって。
僕も恋なんかしたことないけれど、篠崎さんが勇気を出して相談してくれたからしっかり受け止めて考えなきゃな。
「でもね、その人といるとドキドキするし…。他の女の事喋っているともやもやするの。それに......ね?」
「......はい」
「すごく安心するの。だから……」
手をそっとぎゅっと握られる。照れて少し赤くなった頬。まっすぐな瞳。
それだけで、なんだか、篠崎さんしか見れなくなり、雰囲気に飲まれそうになる......。
「結人」
「……え?」
突然、凛さんに呼ばれて引き戻される。
「あ、凛さん?」
「うん。こんにちは。新條凛です」
「新條明音です」
そう言って凛さんが挨拶をして、後ろから可愛く挨拶をしたのが明音ちゃんだった。
「こんにちは。篠崎志保です。”結人君”のクラスメイトでお友達です」
「ごめんなさい。お邪魔しちゃって。でも、もう遅いし暗いからお母さんも心配だろうし、私たちも心配で声をかけてしまったわ」
「すいません。あとちょっとで帰りますから」
公園にある時計を見ると、もう六時半を指していた。周りも暗くなっている。おそらく、電車の遅延とかで帰るのが遅くなった二人が、帰るときに公園の前を通って、それで心配で声をかけたんだと思う。
「分かったわ。じゃあ、先に帰ってるね?」
「分かりました。なるべく早く帰りますので」
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気付いたら体が勝手に動いていた。暗くなって心配なのも少しはあるけれど、それはいい訳のようなもので。
やっぱりこれって......。でも......。
あの時、あの子が結人の手を取った時私は......
「いやだ......」
小さく口から洩れた言葉は隣にいる明音にも聞こえずに静かに溶けて行った。
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胸が痛くて苦しかった。
家に帰って、お風呂に入って学校の宿題をしていても、全く身が入らなくて。
家に帰ってきたお兄ちゃんの顔を見ると元気が出て、「ただいま」「おかえり」って言えるのがすごく嬉しくて。
それから、ご飯の時間お兄ちゃんと喋っているときは楽しくて。
でも、あの篠崎さん?と一緒に居るのを思い出すと苦しくて。
部屋を出て、リビングにいるお母さんのところに行き、この事を相談してみる。
「あの……お母さん。最近ね......」
「うん」
最初、お母さんは少しびっくりしたような顔をして、聞き終わった後は「そっか。そっか」と言って柔らかく笑って
「大丈夫。それは病気じゃないよ。でもね、その答えは自分で見つけるの」
そう言って私を抱きしめる。
「明音。その気持ちを大事にして。それとその気持ちと真摯に向き合うの。それで明音はどうしたいのか、結人君とどうなりたいのかを考えるの」
「うん」
私がどうしたいのか。お兄ちゃんとどうなりたいのか......か。
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