第53話 ……。
「これと、これと、あとー、これも」
母さんが、手際よくポイポイと夕飯の食材をカゴに入れていく。今日は母さんが作る日だから、買うのは母さんに任せて、学校の話や家であった事を話しながら歩く。
「そう言えば、洗剤ってまだ残ってましたっけ?」
「あーそう言えば、切れてたかもしれないね。ありがと結人君」
「そう言えば、この前洗剤の匂い変えてみたんだけれど……」
など、話をしているんだけれども、ここに来るまでに母さんとずっと手を繋いでいたから、少しだけ、手が寂しい。
そんな僕のほんの少しの感情を読み取ったのか、母さんは「帰りにね。私も繋ぎたいし。でも、荷物は半分持ってね」と言われ、「任せて」と、少しだけ照れくさくなりながらも、笑顔で返事をする。
我ながら今は母さんに甘えて、僕の中で一番子供らしい時間を過ごせていたと思う。こうやって母さんに甘えられるのっていいなぁ。
今まで、こうして甘えることなんてほとんどなかったから、すごく心地がいい。
そうこうしながら、会計を済ませて、二人で外に出る。少しだけ日が傾いてきていた。
僕は、片方の荷物を持ち、今度は僕から母さんの手を握る。
母さんは微笑ましそうにしながら僕の手を優しく握り返してくる。
「今頃、明音たち何してるだろうね」
「二人で楽しく買い物とかしているんじゃないかなぁって思います」
「そうかなぁ。意外と結人君の事話しているかもよ?かっこいいとか優しいお兄ちゃんだって」
「そうだったら、少し恥ずかしいけれど嬉しいですね。そう言えば、この前凛さんと連絡先交換したんですよ」
「そうなの?良かったね」
「それで…」
「うんうん」
今までの寂しかった時間を埋めるように、母さんと話をしながら帰る。
そうしてあと少しで階段に差し掛かった時、ふと、
「あの、すいません」
声をかけてくる、男性がいた。
「な、なんでしょうか」
母さんはぎこちないながらも返事をする。そうだよな。まだ、普通に怖いよな。母さんの少しだけ震えている手をさっきよりしっかり握る。
「これ、さっき、落しましたよ?」
「あ、その、ありがとうございます」
そうして、男性は笑顔を浮かべて元の場所へ戻っていく。
「はぁ…。ふぅ…。ごめんね」
「大丈夫ですよ」
僕のじゃ安心できないかもしれないけれど…握っていた手を離して、頭を撫でる。
「ありがとね。結人君」
「どういたしまして」
少し、落ち着いて、また歩き始める。そして…。
階段の一歩目を下ろうとした時、母さんがバランスを崩した。
さっきの事があって、緊張が解けて力が抜けてしまったのかもしれない。それとも、ただの不注意かもしれない。
突然、バランスを崩して、倒れようとした時、咄嗟の判断と言うか何かに駆られて体が動いた。
母さんを守るように僕が下になり…。
あ、まずい。
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