第67話 お昼。

「あ、時間すぎているから、書き終わった人から昼休み入っていいよぉー」


 気の抜けた声で、数学の先生が教室から去っていく。


「はぁ…やっと、終わった」

「終わったね」


 篠崎さんが後ろを向いて、やや疲れた顔でそう言う。


「ふぅ…じゃあ、結人君。一緒にご飯食べよっか」

「え?篠崎さんって他の人と食べるんじゃないの?」


 篠崎さんは高校に入っても委員長を継続して、綺麗な容姿と愛想があるので中学に続いて今でも人気だ。


 ならば、他の人と食べる約束とかしてるんじゃないんだろうか。


 それに、ほら、僕ってある意味悪くは目立っていないけれど……目立っているのだ。


「………結人君って、忘れっぽいのかな?私の名前は?」

「…志保です」

「そうだよね。……名前で呼んでくれないの?」


  中学からの癖で名字で呼んでしまうんだよな。それに、からかうために名前で呼んでいた時も多々あったから、改めて呼ぶとなると、なんだか気恥ずかしくなってしまうのだ。


「別に、篠崎さんの事は篠崎さんのままでいいんじゃないかしら」


 いつの間にか、僕の後ろに立っていた凛さん。


 さっき言った、目立っているというのは凛さんのせいと言うか、凛さんが学校で人気なせいでもある。


 容姿端麗、成績優秀、運動もできる。そんな凛さんが有名にならないはずがなかった。


 それに、なんといっても凛さんは絶対に男を寄せ付けない。そんな凛さんが男である僕と一緒に居るのが話題となって僕は目立ってしまったと言う訳なのだ。


「こんにちは、凛さん。ここは一年生の階ですよ?早く自分の教室の戻ってはどうですか?」

「私は結人とお昼ご飯を食べるから、一年生の階に来ただけだけれど。二年生と一年生が一緒に食べてはいけないなんて校則はないわ」


 二人が何故かにらみ合っている。この二人は気が合わないのか喧嘩することがかなりある。


「じゃあ、結人、行こ?」

「結人君は、私と一緒にご飯を食べるんですよ?勝手に連れて行かないでください」


 またも、睨みあう二人。


「じゃあ、みんな一緒に食べましょ?いいですよね?二人とも」

「まぁ…それなら私はいいよ」

「私も不満はあるけれど、結人がそう言うならいいわ」


 三人で歩き、特別棟の屋上まで行く。凛さんが僕の横に座り、志保も

隣に座り、お弁当を広げる。


「結人、はい、これ食べて」

「え?いいんですか?」

「はい、あーん」

「え、ちょ」

「あーん」

「…あーん」


 卵焼きを口に運ばれ、咀嚼する。ほんのりと甘みが広がりとてもおいしい。それと恥ずかしい。


「それ、私が作ったんだけれど、どう?」

「すごく、おいしいです。凛さん、料理上手になりましたよね」

「ふふっ。そうかしら。ありがと。結人のおかげね」

「凛さんの努力の成果ですよ」

「それもあるかもしれないけれど、結人に喜んでもらうって言う目標があったからだよ」

「?そんなのでいいんですか?僕は凛さんが作ってくれたものなら何でも喜びますけれど」

「ありがと、でも、ちゃんとおいしくなかったら言ってね。将来、役に立つから」

「?。はい、分かりました」


 料理人にでもなるのかな?


「結人君、こっちも。あーん」

「…」

「あーん、だよ?」

「………あーん」


 口に運ばれたのはハンバーグだ。こっちもかなりおいしい。それと、やっぱり恥ずかしい。


「どうかな?」

「おいしいよ。とっても」

「良かった。これからも作ろっか?」

「え、いいよ、大丈夫。迷惑だろうし。申し訳ないよ」

「もぅ、そんな事気にしなくてもいいのに」


 ぷくぅーっと顔を膨らませた志保の顔は嬉しそうな顔をしていた。


 なんか申し訳ないな。僕も二人に何かおすそわけしないと。


「え、っと、その、凛さん。はい、あーん」

「え、ちょ、その、あの。わ、私は良いわ」

「駄目です。僕のも食べて欲しいです」

「…あーん」

「志保も、あーん」

「え、っと、う、うん。あーん」


 二人とも、頬を赤くさせながら僕の作った卵焼きと、ハンバーグをそれぞれお返しする。


 そして、頬を赤らめ、恨みがましそうな目で二人がこっちを見る。


「結人ってずるいわ。私より上手だし、その……」

「そうですね、そこは凛さんに同意です」


 


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