第66話 登校
「良いなぁ、お姉ちゃん」
「ふふっ。いくら膨れっ面したってしょうがないわよ。年の差があるんだから」
「むぅ」
隣を歩く明音ちゃんはいくらか不満そうな顔をしている。
「と言うか、明音ちゃんはこんな朝早くから登校しても大丈夫なの?かなり時間の余裕があるけど」
「お兄ちゃんは、私がいると嫌かな?」
意地の悪そうな笑みを浮かべてこっちを見てくる明音ちゃんに少し苦笑してしまう。
「嫌じゃないけれど、意地悪だよ、明音ちゃん」
「ごめんね。でも、私も一緒に登校したいなって。それに朝早く行って学校で自習していたいから。私もお兄ちゃんたちと一緒の高校に行くために」
「そっか。楽しみにしてるね」
「うん」
嬉しそうに、元気に笑う明音ちゃんを見て元気が出る。と、そんな話をしている間にもう駅についてしまった。
「じゃあ、また帰りにね」
「じゃあね、明音。また帰りに」
「うぅ…やっぱりずるいと思う」
恨みがましそうにこっちを見てくる明音ちゃんだが、小さく手を振って送り出してくれる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
来年、ここで三人別れることなく一緒に電車に乗れるといいな。
そんな事を思いつつ、電車に凛さんと二人で乗り学校から最寄りの駅まで着く。
二人で談笑しながら歩いていると……
「あの新條凛さんの隣で歩いている男の子って誰?まさか、彼氏?」
「いや、それはないでしょ。あれだけ告白されてもOKしなかった凛さんだよ?」
「じゃあ、あの子は誰なのよ」
こんな会話とか、
「あいつ新條さんの隣に平然と並んで歩いているんだけれど」
「あいつほんとに誰なんだよ」
とか、上級生のよく分からない憎悪みたいなものを向けられ僕は終始焦る。
対して、凛さんは僕の隣を平然と歩いているというか、なんだか若干嬉しそうにしているように見えるのはうぬぼれだろうか。
「ん?どうしたの?結人」
「えっと、あの…その…凛さんって学校で有名だったりします?」
「どうしたのよ?急に。別に有名ではないと思うわ。本当に大丈夫?」
そうして、心配してくれたのか僕の顔を覗き込み、目が合い、ほんの一秒ほど見つめ合い凛さんから急に眼をそらす。若干頬が赤い。
そして、熱を冷ますために手で仰ぎながらふと凛さんが周りを見渡し…「あぁ、そう言う事ね」と一人で納得する。
そうして、突然、僕の手をぎゅっと握る。
「たまには、私とも手を繋いで欲しいかな。明音と一緒に登校しているときは手を繋いであげてたんでしょ?」
「えっと、それはそうですけれど」
あれは、明音ちゃんが凛さんと離れて不安だったからどうにかしようと思ってした行動だしな。
「じゃあ、私とも繋いでくれてもいいと思うのよね。私だって、明音とか結人がいなくて寂しかったのよ?明音だけ贔屓は嫌だわ」
僕が事故を経験してからさらに仲良くなり、こうして時々甘えてくれるようになった凛さん。
できるだけ応えてあげたい。…と言うか、僕も凛さん手を繋ぎたい。
凛さんの手って温かくて母さんに似ていてだけれどどこか母さんとは違う手。なんだかその感覚がとても好きで。
自然と心が和らぐけれど、最近、凛さんとか明音ちゃんとかのスキンシップが多くて妙にドキドキしてしまう。
「じゃあ、行こっか」
「はい…」
登校初日から少しだけ恥ずかしいけれど、嬉しい朝だった。
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