第71話

 こんこん、ドアがノックされる。


 母さん、父さん、明音ちゃんが寝静まった夜の十二時半頃。


「ほんとに来たんですね」

「当り前じゃない。私は嘘は付かないわ」


 帰りにこっそり耳打ちされたことは


『夜、一緒に寝ようね』


 こう言われて、真に受けて、どうしようもなく悶々としてしまい僕は僕で起きてしまっていた。


「じゃあ、僕は床で寝るので、凛さんはベットを使っていいですよ」

「何言ってるの?一緒に寝るに決まっているでしょ?今更じゃない」

「それは…僕が怪我していたからで、今はもう何ともありませんし」

「そんなに、私と寝るの嫌?」


 凛さんが甘えるのように、そして若干不安の入り混じった声で僕の事を見つめてくる。


「それは…嫌ではないですし、嬉しいですけれど」

「ふふっ。ならいいじゃない。私も一緒に寝れたら嬉しいもの」


 そう言って僕の手を引っ張りベットに一緒に入る。

 

「久しぶりだね、こうして二人でゆっくり話すの」

「そうですね」

「家族で旅行行った時が最後だったかな」

「そうですね。なかなか、僕に心を開いてくれなかった凛さんがあの時、やっと心の距離を縮められたような気がします」

「もぅ、あんまり私をいじめないで。昔の私は愚かだったの。結人があんなに優しくしてくれてたのに無下にして。今は昔の私を一回殴ってあげたいくらいだわ」


 恥ずかしいのか布団の中に少しだけ潜り込む凛さん。顔を少しだけ覗かせていてなんだか可愛い猫みたいだ。


「でも、そのおかげで今はこんなに凛さんとも仲良くなれているんですから、結果オーライです」

「ふふっ。そうね。それから、私たちはどんどん仲良くなっていって、でも、ある時誰かさんが私をすごく心配させることをしてくれたもんね」

「……すいません」

「あぁ、ごめんね。結人なら絶対そうするだろうし、これはもうしないでねって言う皮肉だよ」

「結局皮肉じゃないですか」

「そうね。でも、今でも私は心配なの。結人はすぐにどこかへふらふら行ってしまっていつの間にか私の前からいなくなっているんじゃないかなって」


 凛さんはじっとこっちを見て目を逸らさない。まるで心の中を覗かれているような感覚だ。


「大丈夫ですよ。あの時三人で約束したじゃないですか」

「………そうね」


 まだちょっと、不安そうな凛さんがこんなことを言う。


「でも、もし結人がそう言う事をしないように、私がずっと手を握って、隣にいてあげるから」

「っ……。ありがとうございます」


 ぎゅっと手を握られ、優しい笑顔を向けられドキッとしてしまう。ずっと隣にいてくれるって、多分家族として僕の事を応援してくれるってことだよな。そうに違いない。


「じゃあ、そろそろ寝よっか。もう遅いし」

「そうですね。……って、凛さん近くありませんか?」

「ふふっ。そうかなぁ?」


 と言うか、抱きつかれているし。凛さんは凛さんで嬉しそうな顔をして眠りにつこうとしている。


「ずっと、い…に、い……うね」


 最後に何か呟いた気がするけれど、眠気と安心感でいつの間に眠ってしまった。



 

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