第45話 思い出を詰めて。
「まだ、目開けちゃだめだよ?」
「分かってるよ」
明音ちゃんが母さんを後ろから押して入ってくる。
「なんだか、緊張しちゃうな」
「ははっ。ここに座って母さん」
横を向いて二人と目配せをして…
「母さん、おめでとう!!」
「おめでとう!!」
ぱんっと勢いよくクラッカーを鳴らす。
ゆっくりと目を開けて……
「……………っ」
母さんの頬から涙がこぼれ落ちていて、拭おうとして明音ちゃんと凛さんがいち早く駆け寄って頬の涙を拭いてあげて、後ろで見守っていた父さんはそれを見て涙を我慢しているように見えて。
「大丈夫よ。明音。凛。大丈夫。ただ。.....嬉しくて」
「まだ、泣いちゃだめだよ。お母さん。始まったばっかりなんだから」
「そうね」
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目を開けると、『お母さん、誕生日おめでとう!!』の文字があって。
凛、明音、それに、結人君、敬人さんがいて。
それだけで、私にはそれだけで十分すぎるほどで。
今まで考えられなかった事。再婚した当初、まさかこんなに早く、”本当の家族”になれるなんて思ってなくて。もしかしたら…なんて思っていたこともあって。
今までしてあげられなかった事、やっと凛と明音に普通の家族って言うものを感じさせてあげられて。
ダメだった私を支えてくれた敬人さん、二人と一生懸命仲良くなってくれて、誰よりも頑張っている結人君には頭が上がらなくて。
少しだけ悔しい気持ちと、安堵、嬉しさ、不甲斐なさ、いろんな気持ちとそれをはるかに超えて、家族が『大好き』だという気持ちが溢れて自然と涙が頬を伝っていて。
ダメだなぁ。こらえきれなかった。
まだ、誕生日会は始まったばかりなのに。
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母さんと、泣き止むのを待って、誕生日会が始まった。
今日まであった事、最近学校であった事、いろいろ話し合った。小さい時の凛さんの話とか、明音ちゃんの話。相変わらず母さんの好きなものは答えてくれなくて。でも「凛、明音、結人君かな」って言ってくれたのは嬉しかったりして。
そして、誕生日会も終わりに近づいて、プレゼントを渡す時がきた。
「あの、母さん」
「ん?なに?どんなすごいものくれるのかな?」
「もう、お母さん。プレッシャーかけないでよ」
「ごめんごめん。なんだか、貰ったら泣くだろうなって思って茶化しちゃった」
「もう」
凛さんと明音ちゃんが呆れる。
まずプレゼントが二人より多い、僕からかな。
「えっと、これは僕個人からのプレゼントです」
「え?お兄ちゃん。私たち聞いてないよ?」
「もぅ、結人。そう言う事は私たちにも言ってよ」
「すいません」
でも、二人が知ったら二人の自然な姿が撮れなかった思うから、言えなかった。
「これ……フォトアルバム?」
「誕生日プレゼントではないかもしれないですけれど、これに思い出を詰められたらなって思って」
「……そっか」
開くと…。
「あ、この前の時の。お兄ちゃん撮ってたの!?」
明音ちゃんが頬にクリームをつけて恥ずかしがっている写真。凛さんが少し得意げに明音ちゃんに語っているところなど、ごく普通の写真。
だけど、母さんはその写真を指でなぞって大事そうに見つめていて。
「結人君。ありがと」
喜んでもらえてよかった。
.....凛さんと明音ちゃんの方を見るとは少しだけ頬が膨れているけれど。
「でも…結人君自身の写真がないのが残念かな」
「.....それは、これからと言う事で」
僕、写真撮られるの苦手だからなぁ。少しだけ危機を感じて強引に次の話に持っていく。
「それより、母さん、それに父さん。ちょっとこっちに来て」
「えっちょっと」
「な、なに?」
困惑している母さんと父さんを真ん中にして、その脇に僕と明音ちゃん、そして
「じゃあ、撮るよー。笑って」
凛さんがタイマーを設定して母さんの隣でにっこり笑って、シャッター音が鳴る。
カメラを確認すると、上手く笑えていない父さんと、写真に慣れていないからか若干顔が引きつった僕、ちょっとだけ困惑しているけど笑顔でピースをしている母さん、楽しそうに笑う凛さんと明音ちゃん。
顔が引きつってしまったけれど、なんだかこれを取り直そうとは思わなくて。
「なんか、いいね」
「...うん」
明音ちゃんと凛さんが頷き、父さんと母さんに見せる。母さんはそれをじっとみて……
ギュッと、僕たち三人を抱きしめた。
「ありがとう」
そう言って僕たちの頭を撫でて泣いた。
数日後。リビングには、誕生日会の写真とその横にアルバムが置いてあって、
それを見る度に母さんは微笑んだ。
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