第46話 下校

「みなさーん。中学三年生で受験生です。この夏休みが大事ですから…」

 

 担任の夏休み前の諸注意を適当に聞き流しながらこれからの事を考える。


 今年の夏は流石に、遊んでいられないかな。一応受験生だし。それに僕は凛さんと同じ高校にしようかなって思ってるから、勉強しないとなぁ。


 今のままでも一応合格圏内だけれど、もっと確実にしておきたい。


 もし、落っこちてしまったら目も当てられないというか、凛さんに泣いてしまう宣言されてるからなぁ。

 

 何故かというと、僕がリビングで勉強しているときの事だ。


「結人、勉強お疲れ様」

「ありがとうございます。凛さん」


 タイミングを見計らっていたのか、僕がちょうど休憩に入ったタイミングでお茶を持ってきてくれた。


 優しいな。凛さん。


「どうしたの?そんなに嬉しそうな顔して」

「えっと…凛さん優しいなって思って」

「え、そ、そっか」

 

 凛さんが恥ずかしがって下を向いて、こっちをちらちら見てくるのが可愛くてついにやけてしまう。


「えーっと、結人は何処の高校行きたいとかあるの?」

「特に決めてないですね。でも、出来れば偏差値が高いところに行って選択しが増えるようにはしたいなって思ってます。それに、出来れば父さんには楽をさせてあげたくて勉強をしてお返しができれば良いなって思ってて」

「そっか。じゃあ、さ。私が通っている高校とか、どうかな?自分で言うのもなんだけれど、偏差値もかなり高いし、ここから近いし。それに…結人が一緒の高校に来てくれたら嬉しいなって…思ってたりもして」

「そ、そうですか。が、頑張ります。…まぁ落ちちゃうかもしませんけれど」


 今の判定で落ちるか落ちないか微妙なところだからな。頑張らないと。


「大丈夫だよ!私、結人がしてくれたように今度は私が結人の事応援するから。だから、落ちたら、私、泣くからね」

「…なら、頑張らないといけないですね」


 と、こんな風に凛さんなりの応援をもらっているから義務感と言うよりも、今はやる気がすごい。


「羽目を外さないようにね。じゃあ、篠崎さん。号令を」


 ホームルームが終わった瞬間、急ぐように帰る人、図書室に向かう人それぞれだ。


僕は、家に帰って勉強かな。


「新條君、待って」


 と、思ったけれど聞き慣れた声が聞こえたので立ち止まる。


「あのさ、一緒に帰らない?」

「…え?」

「嫌かな?」

「良いけれど、なんでですか?」


 委員長の事だから何か僕にやってほしい事とか、学級委員で何かあって手伝って欲しいとかかな。


「それは…理由がないと私は新條君と帰っちゃダメかな?」

「すいません。言い方悪かったですね。いいですよ。帰りましょう」

「ありがと。じゃあ、行こっか」

「うん、あ、でも明音ちゃんも一緒に帰りますけれど大丈夫ですか」

「…うん。全然大丈夫だよ」


 二人で一緒に並んで帰る。そう言えば…あの話はどうなったんだろう。篠崎さんが誰かを好きな話。結局、あの日は有耶無耶になって終わっちゃったからな。


 聞かれちゃダメな話だろうから、小さい声でできるだけ近くで話した方がいいよな。


「あのさ、篠崎さん」

「ひゃっ、な、なに新條君」


 素っ頓狂な声を出す篠崎さん。…反応が面白いからもう少しやってしまおう。


「あ、すいません。でも、あんまり大きな声で言っちゃいけない事だと思うので」

「は、はい」

「えっと…まえにあっ……」

「お兄ちゃん」


 またまた、声に遮られて後ろを向くと、明音ちゃんがいた。


「今日は、篠崎さん?と帰るの?」

「えっと…」

「こんにちは、明音ちゃん。一緒に私も新條君と一緒に帰ろうかなって思ってるんだけれど、お邪魔しちゃダメかな」

「…いいですよ」

「ありがと、じゃあ、行こっか」


 妙に二人ともぎこちないけれど、大丈夫かなぁ…。


 

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