第47話 最初で最後。
「……」
「………」
「………」
三人歩いて帰るけれど、そこに会話はない。なぜだか二人の間に亀裂があるように見えてならなくて、話そうにも話せないような空気が漂っている。
お互い多分、ほぼ初対面のようなものだからだと思う。
ここは、僕が頑張らなくちゃだよな。
「あ、あのさ、篠崎さんは家帰ってから何するの?」
勇気を振り絞って、どうにか話を振ってみたけれど、あまり他の人と話さないからか話題がこんなことしかなくて少し恥ずかしい。
だけれど、クラスでみんなから頼られている篠崎さんなら笑って僕の話に乗ってくれるはず。
「…”結人君”。いつもみたいに、志保って呼んでくれないの?」
「あ、え?」
そう思ったけれど、変化球が来て戸惑ってしまう。
「あ、あれは少しおふざけと言うか」
僕があたふたしていると、
「ふふっ。”結人君”焦りすぎ」
こっちをにやにやして笑う篠崎さん。いつもの仕返しをこんなところで返されるなんて、僕だって……。
「志保だっていつも僕以上に可愛い反応してくれるよね」
「っ…」
ほら、こんな風に頬を赤くして顔を両手で隠す。
「結人君の馬鹿。あほ」
そう言ってそっぽを向いてしまう篠崎さん。そう言う可愛いところでみんなにモテるんだろうな。
そんな事を考えていたら、隣からくいくいと袖を引っ張られる。
「お、お兄ちゃん、今日の夜、お姉ちゃんと一緒にテレビ見るんだけれど一緒に見ない?」
「え、あ、良いの?僕がいて」
「いいよ、一緒に見よう?元から誘うつもりだったし。お兄ちゃん前見たいって言っていた映画だから」
「ありがと、明音ちゃん」
「うんうん、いいよ、全然」
……完全にやってしまった。明音ちゃんを置いてけぼりにしてしまった。だから、多分頑張って袖を引っ張ってくれたんだろうな。
はぁ……気を付けないと。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
気付いてたら、お兄ちゃんの服を引っ張ていた。
なんだか、二人が離しているのを見ていると、もやもやして、うずうずして、お兄ちゃんが楽しそうにしているのが何よりも苦しくて、胸が痛い。私もお兄ちゃんと喋りたくて。
いつの間にか手を伸ばしていた。
それからは、私とあの篠崎さんとお兄ちゃんと話していたけれど、あの人が知っていて私が知らないお兄ちゃんの一面が見えて嬉しくて、何故だか、苦しくて、悔しくて。
それに対抗するように私も家でのお兄ちゃんの事を話していた。
「あ、結人君。私こっちだから。あ、あと、結人君は先に行ってて。私たちは二人だけでお話があるから」
「え?いつの間に?」
「良いからいいから」
「わ、分かったから、押さないで」
お兄ちゃんは先の方に行ってしまう。
そして、私たちは二人だけになり、静かな空気が流れる。そして、彼女はこう言ってきた。
「明音ちゃん、いい加減気付かないと私、貰っちゃうよ」
「…え?」
「それだけ、じゃあね」
「………」
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
「明音ちゃん、いい加減気付かないと私、貰っちゃうよ」
「…え?」
「それだけ、じゃあね」
「………」
私ができる最大のエールで、宣言だと思う。
自分の気持ちに気付いていないだろう、明音ちゃんと戦うのはなんだか不公平な気がして。お姉さんはどうか分からないけれど。
でも、これで手助けは最初で最後。
結人君は気付いていないだけで、かなりモテるのだ。私が我慢しても他の子が告白して、結人君の気持ちがそっちに言ってしまったら目も当てられない。
だから、これで最後。
最後に結人君……結人の隣で歩いているのが私であったら良いな、そんな切実な思いを胸に抱えながら、帰路に就いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます