第48話 お互いの気持ちの確認
「明音ちゃん、いい加減気付かないと私、貰っちゃうよ」
この言葉が頭から離れない。ずっと、ずっと私の中で反芻されてしつこいくらいに鳴り響いている。
貰っちゃうよ。それは、お兄ちゃんをだ。
…それは、すごく嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
お兄ちゃんが、あの人と一緒に笑いあったりしているのを見るだけで私は不安になるし、意地でも入り込みたくなる。
一緒に映画を見ているお兄ちゃんの横顔を見る。
いつからか見ることができなくなったけれど、今では少しだけ見れるようになったお兄ちゃんの顔。
かっこいいな。そう自然に思った。でも素直にその言葉を言えない。
お姉ちゃんには綺麗だねとか、可愛いとかすごく自然に言えるんだけれどお兄ちゃん相手になるとどうしても恥ずかしさが勝ってしまう。
それは、どうしてなんだろう。何度も考えた。だけれど、今まではそれらしい答えは見つからなかったけれど…今日あの人に言われてそれなんじゃないかと心当たりのあるものはある。
それは…私がお兄ちゃんを好きだって言う事。
あの人は、多分お兄ちゃんが好きだ。だから奪っちゃうなんて言ったんだろうと思う。その時、私は自分も同じなんじゃないだろうかと思った。
だけれど、それは私たちの兄妹間を壊しかねないことであってそうじゃない方がいいと思う反面、納得してしまっていたり、そうであって欲しいと思う自分もいる。
多分私が行動を起こさないと、多分お兄ちゃんはあの人と付き合ってしまう。
どうすれば、良いんだろう。分からないよ。
私が行動を起こせばお兄ちゃんが今まで必死に頑張って私たちと仲良くしてくれてやっと仲良くなったのに、もしかしたらそれで今のように一緒に映画を見るなんてこともできなくなってしまうかもしれない。
でも、あの人にお兄ちゃんを何もせずに取られるのはすごく嫌だ。
どうしよう。…。……。…。
「明音ちゃん」
「ひゃ、な、なにお兄ちゃん」
お姉ちゃんに配慮したんだろうお兄ちゃんは私の耳で囁く。変な声が出てしまって少し恥ずかしい。
「大丈夫?元気ないよ?」
「え?だ、大丈夫だよ。お兄ちゃん」
「そう?でも、何か相談したいことがあったらいつでも聞くから」
「ありがとね。お兄ちゃん」
本人に相談なんてできないよぅ。でも、お兄ちゃんが私のことを気にかけてくれているだけで私は胸が高鳴る。
やっぱりこれって…。
「はぁ……。面白かったね。結人」
「面白かったです」
いつの間にか映画は終わっていたみたい。お兄ちゃんはこっちに目配せをして柔らかく微笑む。そうして、もう遅いから部屋に戻って行った。
私も部屋に戻ろうと思って、立ち上がる。
「明音。私の部屋に来て」
「うん、いいよ」
お姉ちゃんになら言ってもいいかもしれない。
いつものように、お姉ちゃんの部屋の定位置に座る。結構な頻度でお姉ちゃんの部屋に来るから定位置は決まってる。
一呼吸おいて、お姉ちゃんは話始める。
「明音、まず私の話を聞いて」
「うん。いいよ」
「私ね、結人の事が好きなの」
「えぇ!?」
「五月蠅い」
お姉ちゃんに口をふさがれる。
「で、多分それは明音も同じなんじゃないのかなっていうか、やっと気づいたのかなって」
「…なんで、そう思ったの?」
「だって、私と同じ顔するんだもの。今日、何があったかは分からなかったけれど、多分結人への気持ちに気付いたから複雑な顔しているんでしょ?」
「……うん」
「それに、結人と喋っているときの明音、私と喋っているときより嬉しそうだもん」
「え?そんなに?」
「そうよ、でも、それは私も同じかもしれない。自分でも分かるくらい、結人と喋っているときはにやけちゃっているから」
……確かにそうかもしれない。お姉ちゃんも私もお兄ちゃんと一緒に居ると自然と笑っていたような気がする。
「私たち、似た者同士だね」
「そうね」
二人で笑ってしまう。でも、しょうがないよね。お兄ちゃんかっこいいんだもん。
「でも、お姉ちゃんはどうするの?私たち兄妹なんだよ?」
「分かってる。だからさ、私たちが結人を好きになったように結人にも私たちを家族としてじゃなくて一人の女の子として見てもらえばいいんじゃないかなって思って」
「え?それって」
「そう、私たちがアタックしまくって結人に私たちどちらかを好きになってもらう」
それっていいのかな?いいような、良くないような。それよりも心配なのは……
「でも…お兄ちゃんに好きになってもらえるかな?私たち以外にも篠崎さんとか多分他にもお兄ちゃんの事好きな人はいると思う」
「大丈夫、私たちは家族だから一番近くで結人の事を見られるし、ほら、私たちってモテるでしょ?」
「ふふっ。そうだね」
「だから、大丈夫だよ」
お姉ちゃんは私を安心させるようにそう言う。そう言われたらなんだか大丈夫な気がしてきた。
世間的には、兄妹間での恋愛なんて普通はダメだ。だけれど、好きになっちゃたし、お兄ちゃんを取られたくないし、相変わらず男は嫌いだからお兄ちゃん以外を好きになるなんてありえないと思う。
「でも、どっちが勝っても言い合いっこなしだよ?」
「嫌よ。もし私が負けたら恨みと怨念の籠った視線を送るわ。それくらい結人の事好きだし、私、結人のこと以外好きになることなんてないもの」
「どっちが勝つだろうね?」
「私たち、初めての大ゲンカね」
「ふふっ。そうだね」
お兄ちゃんの隣をいつまでも歩いていられますように。
私は眠る前にそんな事を思いながら寝た。
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