第69話 下校

「今日は終わり、じゃあ掃除当番の人ちゃんと掃除してね」


 先生も授業をするのが疲れたのか、帰りのショートホームルームが終わると若干声が弾みながら教室を後にする。


 僕も帰るか。凛さんも待っているだろうし。


「あ、新條君、新條君」

「えっと、はい、なんですか?」


 えっと…クラスの女子の…。誰だっけ。あんまり喋ったことがないというかクラスの女子と喋らないから名前が分からない。


 まぁ…男子ともあんまり喋れていない。……これから仲良くなっていきたいけれど、なんだか僕に対する目が凄いんだよね。多分、人気の篠崎さんと凛さんが僕に結構話しかけてくれるからだろうけれど。でも、凛さんは家族だしなぁ。そこは許して欲しい。


「私たち、一緒に遊ぶんだけれど…どう?一緒に遊ばない?」

「えっと…」

 

 正直、誘ってくれるのはすごい嬉しいけれど、凛さんが下で待っててくれているしな。でも、クラスの人と仲良くするチャンスでもある。


「ゆーいと君」

「結人。遅いから見に来たわ。それで…何しているの?」


 篠崎さんと凛さんに後ろから声を掛けられる。心なしか怒ってる……?なんで?少し遅くなっちゃったからかな。


「えっと、もしかして、先約とかあったりした?ごめんね。じゃあ、また誘うから」


 何とも言えぬ僕の後ろの二人の圧力で誘ってくれた子たちは行ってしまいそうになる。


「あ、あの、誘ってくれたのにごめんなさい。今度は一緒に遊ぼうね」

「え、あ、う、うん。絶対だよ」


 感謝の気持ちを伝えたのに、なんだか逃げるようにその場を去ってしまった。


「はぁ……なんでこう、結人君は……」

「ほんとに、結人は……」


 なんだか二人に呆れられている。


「絶対、あの子たち、結人君のこと好きになったと思う」

「結人の無自覚にあの笑顔をばら撒くのは止めて欲しいわ」


 何を話しているのか、二人だけでこそこそしている。この二人、仲が悪いことが多いけれど、偶に息が合うのか二人だけで話すことが多い。


「はぁ。……ほんとに私の弟は。じゃあ、帰ろっか」


 そうして、教室内なのに僕の手を取り歩き出す凛さん。


 恥ずかしいけれどやっぱりなんだか嬉しい。志保は流石に恥ずかしいのかしてこない。当たり前だけれど。……そんな事したら彼氏かと勘違いされてしまうかもしれないしね。


 僕が彼氏なんて嫌だろうし。前、自分には気になっている人がいるって言ってたから。


 外に出るため一旦離した手をもう一度繋ぎ直し校門の方まで歩いて行くと少しだけざわざわしている。

 

 何事かと思ってみると……。


「あ、お兄ちゃん!……とお姉ちゃんと篠崎さん」


 明音ちゃんだった。


「どうしたの、明音ちゃん」

「えっと、今日は授業が短縮されていたから早く帰れて。どうせならこっちまで迎えに行こうって思って」


 そう満面の笑みで言う明音ちゃんに思わず笑みがこぼれる。


「それで…お兄ちゃんは、なんで校舎内でお姉ちゃんと手を繋いでいるの?」

「良いじゃない。家族なんだし」

「じゃあ、私も繋ごうかな。家族だし」


 そう言って手を繋いでくる。その時明音ちゃんはちらっと志保の方を見て、笑った気がした。


 そして、志保は志保で「むぅ」と唸り声をあげてるし。この二人もなんだか仲が悪いんだよなぁ。


 それから三人で、騒がしく帰った。



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