第81話

 文化祭も段々と近くなってきたころ。


「駄目だわ。それは許可できない」

「良いじゃないですか。景品を現金にしても。景品が大きくないと盛り上がらないじゃないですか」

「だから、そう言う事はしてはいけないと書いてあるはずだわ」


 目の前の三年の先輩に堂々とした態度で対応しているのは凛さんであるが………相手が男だって言う事もあって、机の下では隣の僕の手を握っている。


「………はぁ。分かりました」


 そう言って拗ねたように会議室を出ていく先輩。


「かっこよかったですよ。凛さん」

「そんな事ないわ。結人に助けてもらってばかりだもの」

「僕、あまり何もしていないような気がするんですけれど」

「しているわよ。結人が私の隣にいるだけで、何倍も勇気が湧いてくるんだから」

 

 そう微笑む凛さん。


 だけれど、こうした対応や資料の確認など負担ががやはり大きく疲れているのを僕は分かっている。


 凛さんや明音ちゃんをずっと観察してきた……と言ったら語弊がある……とも言えないけれど見てきたのだ。


 でも、こんな時、僕は言葉をかけることや料理を作ってあげることしかできないので、僕は考えた。


 副委員長なのだから、僕にも資料の確認や対応、会計の処理を凛さんより多く回してもらえばいいじゃんと。勿論もともとあった仕事もやる。


「…。結人、また、なんか変なこと考えてる?」

「へ?いや、何も考えていないですよ」


 そう誤魔化すけれど、凛さんは一層、訝し気な視線を強めるが


「新條さん、少しこっち来てください」

「あ、分かったわ。少しいってくるね」


 凛さんが、対応をしている間に、僕も仕事しますか。


 ここどうすれば見やすいんだろう、えーっとこの資料をここに張り付けて…と、集中すること二時間くらい。


「結人君、これ確認お願いね」


 トントンと肩を叩かれ、振り向くと志保がいた。


「うん、分かった」

「そう言えば、結人君の仕事こんなに多かったっけ?」

「あー……うん。段々と文化祭近くなってきたし」

「そっか。じゃあ、そんながんばっている君にご褒美を上げよう。何が欲しい」

「んー、休み」

「それは、私じゃ無理だよう。もっと現実的な事でお願い」


 うーん、お願い事かぁ。志保に文化祭とかの仕事で負担はかけたくないしな。それじゃあ……


「じゃあ、何処か遊びに行きませんか。ほら、育人とかと三人で久しぶりに」

「え!?う、うん。絶対にいく」


 嬉しそうにはにかんで「絶対だからね!」と言って、自分の持ち場に戻っていく志保をみて、少し和む。


 …仕事やりますか。


 そうして、またキーボードをたたき始めた。



 

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