第80話

「六月にある文化祭についてだけれど……」


 そう言って壇上で指揮をとるのは委員長が板についている志保だ。

 

「じゃあ、文化祭実行委員になってくれる人ー?」


 当然のことながら、あんな面倒くさそうな実行委員に進んでいこうとする人は誰もいない。


 しんと、静まり帰っている教室。


「……だよね。じゃあ、私の偏見で決めちゃおうかな。じゃー、そこに暇そうに座っている、新條君!」


 だよね、なんかそんな気がした。


「………はい。分かりました」

「もうひと枠は私がやるから、じゃー、次は…」


 そこから先は驚くほど速く決まった。


 高校に入ってからの初めての大きな行事だからだろうか。


 指揮を執り終わって、僕の前の席に着く志保。


「これから、文化祭よろしくね?」

 

 そう、意地の悪い笑みを浮かべている志保。


「ほどほどによろしく」




 その日の放課後。


 文化祭実行委員が、会議室に招集され、志保と適当に話しながら行くと………。


「こんにちわ、結人と……篠崎さん」

「え、凛さん?」


 後ろを振り返ると、凛さんが立っていた。


「なんで、凛さんが?文化祭実行委員なんかに?」

「私がやってたらだめ?」

「全然だめじゃないですけれど、積極的にはやらなそうなイメージなので」

「ふふっ。普通ならそうだけれど、結人がやるなら、話が変わってくるもの」

「え、僕がやる事知ってたんですか?」

「ん?なんとなくするだろうなって思って」

 

 そう言って、凛さんは志保の方をちらっと見る。


 対して志保は、「うぅー」とか言って唸ってるし。


「まぁ、こんなところで立っていても仕方がないし、早く中に入りましょう」


 凛さんに先導されて、中に入る。


 学年ごとに座る場所が決まっているから、凛さんとは一旦お別れだ。


「はぁ……私の作戦がぁ」

「ん、何か言った?」

「何でもない」


 そう言ってまたため息を吐く、志保。


 ほんとにどうしたんだろう。


 少し調子がくるっている志保を宥めながら、待つこと三分。


 すべてのクラスがそろい、委員会が始まる。


「じゃあ、起立。礼」


 僕たちの担任の女の教師が間延びした声で号令をする。


「じゃあ、まず初めに、委員長を決めちゃおっか。やりたい人ー」


 また、誰も手が上げないだろうなと思っているとき、


「はい、わたしがやります」


 そう言ってあげたのが僕の姉である、凛さんだった。


「おー、ありがと。じゃあ、委員長も決まったし、後は委員長さんに仕切ってもらおうかな」

「分かりました」


 凛さんは嫌な顔せず、全員に聞こえるように、声を出す。


「じゃあ、副委員長やりたい人ー」


 案の情誰もやりたがらないので……


「はい」


 僕が手を上げる。


「ふふっ、ありがとね」


 そう言って、僕の方を見て笑顔で返す。


「じゃあ。……次は…」


 そのあとは、書記の位置に焦ったように志保が滑りこみ、他の役職も次々と決まっていった。

 

流石凛さんだな。


「どうしたの結人?」

「凛さんは、頼もしいなって」

「褒めたって、このくらいしかしてあげられないわよ?」


 そう言って、僕を抱きしめる。


「ちょ、待って、みんなが見てるから」

「関係ないわ。家族のスキンシップだもの」


 少し気恥ずかしさから居心地が悪くなったけれど、文化祭が楽しくなるような気がした。




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